issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 04 06
その夜。はちるの部屋の照明は、深夜を回っても消えなかった。
家じゅうが、窒息しそうなほど張り詰めた空気で満たされている。ちゃぶ台を囲む4人の顔には、
濃い疲労の色が沈殿していた。誰かが淹れた茶は、誰にも手をつけられないまま、
とうに冷めきっている。
議題はただひとつ。老いさらばえ、自我を失った彼女――かつて神であり、母であった吉濱尊の、
今後の「処遇」について。処遇。家族に向ける言葉として、これほど冷たい響きの単語もない。
だが、もはやその冷たい言葉でしか、この現実は取り扱えないところまで来ていた。
長い、長い沈黙のあと。
「……受け入れてくれる老人ホームを、探すべきだと思う」
おせちが、その言葉を絞り出した。まるで自分が極悪人の役を買って出たかのような、
低く押し殺した響きだった。
誰かが、言わねばならなかった。まとめ役である自分が口火を切らなければ、
この4人は誰ひとりその選択肢に触れることすらできず、ためらい続けたまま、
母もろとも共倒れになるまで擦り切れていく――それが分かっていたから、言った。
分かっていても、言葉は喉を切りながら出てきた。
「――」
沈黙が落ちる。
その重苦しさを断ち切るように、アシュリーが顔を上げた。
「嫌だ」
短い。だがその2文字は、鋼のように固かった。
「最後までやるぞ、私は。最後まで、絶対に。……『フリークラウドから来たワイルドな瞳の少女』は、こんなことじゃ負けない」
それは、単なる感情論ではなかった。悲壮なまでの、決意だった。
どれほどボケようと、名前を忘れられようと、顔を忘れられようと――あの人は、自分たちの母親だ。
それを他人の手に委ね、コンクリートの箱の中で独り死なせるなど、彼女の魂が許さない。
さなが、泣き腫らして赤くなった目をこすりながら、こくりと深くうなずく。
はちるも、膝の上で拳を固く握りしめて、姉妹の言葉への同意を示した。




