表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#06 I I I Little Talks

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
758/776

issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 26

だが、その言葉は、けして音にはならなかった。

なってはならなかった。口にすれば、あの子たちの覚悟を、

まるごと侮辱することになる。


彼女は奥歯を噛み締めた。ぎり、と骨の軋む音が頭蓋に響く。そうして、

その軟弱な親心のすべてを、滲んだ血の味もろとも、腹の底へと呑み下した。


「……いいよ。近場までなら送ってやる」

そこへ、マツバラという男が現れる。廃墟の向こうから近づいてくるヘリコプターのローター音が、

みるみる圧を増し――呑み下しきれなかった未練の残りを、根こそぎかき消すように響き渡った。


「まずは1度家に戻って補給したいです。……お世話になります!」

おせちが、マツバラに向かって屈託のない笑顔を見せる。ついさっきまで瓦礫に埋もれていた娘の、

15歳の年相応の、あまりに純粋で、あまりに健気な笑顔。――だからこそ、それは尊の胸を、鋭利な刃物のように抉った。


(笑うな。……そんな顔で、死地へ向かうな)

ヘリコプターが浮上する。叩きつける爆風が、尊の着物の裾を激しく暴れさせた。

彼女は目も庇わず、ただ立ち尽くしたまま、遠ざかる機体を見上げ続ける。


……自分が、そうしたのだ。


あの子たちを「ヒーロー」にしてしまったのは、他の誰でもない。普通の少女として笑い、

恋をし、老いていくはずだったささやかな幸せを捨てさせ、

血と硝煙の道へと引きずり込んだのは――拾ったあの日、勝手に仙丹を含ませた、この自分なのだ。

その罪悪感と、いつか必ず来るかもしれぬ「喪失」の予感とが、砂嵐のように視界を覆い尽くしていく。


「……すまぬ。すまぬなぁ……」

絞り出された謝罪は、ローターの轟音にあっけなくかき消され、誰の耳にも届かない。

ただ、秋空の彼方へと消えていく小さな機影だけが、

いつまでも、いつまでも、彼女の網膜に焼き付いていた。


……夢が、終わる。


現在の尊は、閉じた瞼の隙間から、止めどなく涙を溢れさせていた。

あの頃から少しも見た目の変わらない、あどけない目尻。そこを伝った涙の筋が、

ひとつ、またひとつと、枕へ静かに染み込んでいく。


「……行くな……どこにも行くな……」

寝言のように、かすかな声が漏れた。


それは、あの日ついに言えなかった言葉が、ついに見つけた出口だったのか。

それとも――記憶という記憶が指の間からこぼれ落ちていく恐怖の中で、

遠ざかる娘たちの面影だけは手放すまいとする、魂の叫びだったのか。


目覚めの時が、近づいている。

だが、その瞼の先に待つ現実は、夢よりもなお残酷で――頼りない、深い霧の中に包まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ