issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 25
「――あやつは必ず、今日の軍の演習の場で新たな企みを仕掛けてくるじゃろう。
ゆえに、嘆いておる時間はない」
尊は声を張った。神として。司令官として。この世界の守護者たる威厳を、
辛うじて声帯の上に保ちながら、娘たちへ次なる死地へ向かうよう命じる。
「――追うぞ、お前たち」
瓦礫の山の中から、おせちが上体を起こした。肩から石の粒をこぼし、
頬の煤を手の甲でひとぬぐいして、まっすぐに立つ。
「そうだね」
凛と通るその声には、迷いのかけらもなかった。その頼もしさが、
尊にはどうしようもなく眩しく――そして同時に、どうしようもなく、恐ろしかった。
「詳しい話は今はできぬ……。悪いが、シャカゾンビの追撃はお前たち4人に任せたい。
きっと日本海の方角よ。お前たちだけで先行してくれ」
「本気?」
はちるが、獣の目をすがめて問うた。
「本気じゃ」
即答だった。そこに逡巡を挟むことは、司令官として許されなかった。
尊は懐から無骨な無線機を取り出し、はちるの手に握らせる。そして、4つの背中を押した。
行け。戦え。世界を救え。
その言葉に、一片の嘘もなかった。それは紛れもなく、
この星の守護神・吉濱尊の、偽らざる信念だった。
――信念で、あったのだが。
(……待て)
尊の、そのさらに奥底で――もう1人の自分が、必死に叫んでいた。表の自分の決断が届かぬ深層で、
格も、理も、威厳もかなぐり捨てて、喉を掻きむしるように叫び続けていた。
行くな、と。本当は、ただそれだけを言いたかった。あんな化け物のもとへ、
お前たちだけで行かせてなるものか、と。
世界平和などどうでもよい。国の存亡など知ったことか。自分と言う存在が決して紡いではならぬ言葉が、熱い塊となって喉元までせり上がってくる。それは、神としての理性を内側から焼き尽くす、
親としての剥き出しのエゴだった。
(正直なことを言えばな……。わしは、お前たちのうち、誰か1人でもおらんようになってしまったら……。そんな世界は、もういらんと思うておる)
世界と、娘たち。
天秤にかけるまでもなかった。皿に乗せる前から答えは出ている。娘たちのいない世界になど、
守る価値は欠片もない。星も、人も、この3000年も――すべてまとめて、釣り合わぬ。
それが、ヒーロー「オールラウンダー」ではない、吉濱尊というひとりの個人の、偽らざる本音だった。




