表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#06 I I I Little Talks

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
755/777

issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 23

「……はあ。左様で」

写真屋は狐につままれた顔のまま、やれやれと首を振った。

被写体がどれほど常識の外にいようと、シャッターを切るのが仕事である。

プロの矜持で気を取り直し、ふたたびファインダーへ――と、その矢先だった。


「ママ、ウチもきついよ。……ちょっとだけ、破っていい?」

「ならんならんならん!それは貸衣装じゃ!弁償する金など我が家のどこにもないぞ!」

はちるが心底憂鬱そうな顔で袖を引っ張るたび、縫い目がミチ、ミチ、と不穏な断末魔を上げる。

数えで7つにして庭石を放り投げる野生児にとって、体を締め付ける着物とは、装いではなく、

ただの拘束具でしかないのだろう。慌てて袖を押さえに走る尊。

その背後で、さらにもう1人が、静かに制御を失いかけていた。


「ねえ。わたし、浮いてたほうがいい?そのほうが背、高く見えるよ?」

「たわけ、地に足をつけよ!記念写真で空中浮遊する7歳児があるか!」

善意100%の顔でふわりと重力を手放し、つま先を浮かせかけたさなの裾を、

尊がすんでのところで掴んで引き戻す。畳の上ならまだしも、衆目とレンズの前である。


「……はいはーい、それじゃあ皆さん、笑ってくださいねえ。――ああ、お母さんも。

お母さんも、もうちょっと真ん中に寄って」

諦めと悟りの中間くらいの声に促され、尊は列の中央、娘たちの間へと身をねじ込んだ。


途端、四方から「家族」が押し寄せてくる。


右からはアシュリーの、着物越しにも分かる火鉢のような体温。左からはおせちの、

微動だにしない静かで確かな腕の感触。

前には、はちるが窮屈な着物ごと遠慮なくしがみついてくる重み。

そして背中には、さなが、こてん、と全信頼を預けて寄りかかってくる軽さ。


右も、左も、前も、後ろも。ふさがっていて、あたたかい。


(……なんとまあ)

ふと、尊の胸の奥に、名前を付けそこねるような熱がこみ上げた。


背丈はもう並ばれてしまった。この分では、追い抜かれるのも時間の問題だろう。

その身に眠る力は、ひとつ道を誤れば、世界そのものを滅ぼしかない。……だが。


四方の肌ごしに伝わってくるこの体温は、そんな理屈のいっさいを飛び越えて、

ただひとつの真実だけを雄弁に語っていた。


――この子らはまだ、庇護されるべき幼き者たちなのだ、と。


「撮りますよー。はい、チーズ!」

パシャッ。


乾いたシャッター音が、どこまでも高く澄んだ秋空へ吸い込まれていく。

焚かれたフラッシュの白い光が、


紅葉と、千歳飴と、5人ぶんの体温ごと――この時間を「永遠の一瞬」として、

フィルムの上へ焼き付けた。


のちに現像されたその写真の中で、彼女たちは、母と寸分変わらぬ背丈のまま、

生意気盛りの笑顔を咲かせている。


神と、神がこしらえた最強の娘たち。その5人が、

ほんのひと時だけ「普通の家族」を演じられた、奇跡のような1枚だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ