issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 20
「さな、いかん! 戻ってくるんじゃ!」
足元では植木が燃え上がり、頭上では娘が成層圏を目指そうとしている。
どっちつかずのパニックに陥り、尊が声だけを必死に、空に投げかけていると、
今度は足元から腹にもたれる地響きが伝わってきた。
ズズズ……ガゴンッ!
視線を落とせば、はちるが庭の片隅でしゃがみ込んでいる。
彼女の手は、追いかけていたダンゴムシが逃げ込んだ先だったらしい、
推定1tはある巨大な庭石を、片手で軽々と払いあげるところだった。
「むししゃん、いた!」
彼女はニカっと無邪気に笑うと、用済みとなった巨岩を無造作に背後へ放り投げた。
放物線を描いて飛んでいった岩塊は、境内の鐘楼に直撃し、柱をへし折り、
ゴォォォンという余韻のない破壊音を立てて、鐘もろともあっけなく粉砕された。
「……」
尊は、開いた口が塞がらなかった。火を噴く子、空を飛ぶ子、岩を投げる子。
「ありえん……思っていたより、才能の開花が早すぎる。これはもう、
今日からでも修行をさせていかねば……!」
尊の焦りはもっともだった。煙を上げる植え込み、崩れ落ちた鐘楼と地面にあふれ出した青い屋根瓦。
平和なはずの秋の庭は、瞬く間に神話の戦場か何かの様相を呈している。尊は遠い目をして、
無惨に崩れ落ちた鐘楼の残骸を見つめた。
そんなカオスの中、ひとりだけ大人しく泥遊びに興じていたのが、おせちだった。
彼女は周囲の喧騒などどこ吹く風で、黙々と泥をこね、歪みのない綺麗な球体を、
何個も作り続けている。傍目には十分に出来がいいものに見えるが、
おそらく彼女は生まれついての凝り性であり、完璧主義者なのだ。
指先の感覚だけでミクロン単位の凹凸を検知し、気に入らなければ即座に潰す。
ひとつの失敗を次の作品に活かす、職人のごとき試行錯誤の過程を延々と繰り返し続けている。




