issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 16
朱に染まりかけた空が、急速に群青へと傾いていく、白走の街。
その夕闇の底を、1台の軽トラックが疾走していた。ハンドルを握るのは、
ボロボロの小袖のままの尊である。閉店間際のホームセンターへ這うように駆け込み、
店員を拝み倒して荷台ごと借り受けてきた1台だ。荷台には、彼女の背丈ほどもある巨大な段ボール箱が、荒縄で厳重にくくりつけられている。
空を飛べば1分の距離だった。だが、音速の風圧に段ボールが耐えられぬことくらいは、
さすがの神にも想像がついた。本日、彼女は「力とは加減である」ということを、
身をもって2度学んでいる。
帰宅するや否や、破壊を免れた別の座敷へと箱を担ぎ込む。封を開ければ、中から出てきたのは、
木の板が23枚、長短のネジが4袋、そして謎の金具の群れ。それらの正しい姿を示すのは、
線画だけで一切の言葉を持たぬ、判じ物のような説明書が1枚きりである。
「……なんじゃこの絵は。板Aと板Bの、どこがどう違うんじゃ……」
国産みの神話にも匹敵する難行が、そこから始まった。慣れない手つきでドライバーを握り、説明書と現物を何往復も見比べながら、1本、また1本とネジを沈めていく。力の加減を誤れば、
板は乾いた音を立てて悲鳴を上げた。
ミシリ、と亀裂の走りかけた側板を、彼女は青ざめながら神通力でそっと撫でて繋ぎ直す。
手は震え、額には汗。だが、止まることは許されない。
これはただの日曜大工ではない。娘たちが安心して眠るための――城郭の、建設なのだ。
日が完全に暮れきり、夜の帳が下りた頃。柱時計の針がずいぶんと深い角度を指す中で、
ようやく、母としての初日の業務がすべて完了した。
組み上がったばかりの、真新しいベビーベッド。その柵の内側に、4人の赤ん坊たちが、
こつんこつんと頭を寄せて眠っている。――ちなみにこの時の並びこそが、
のちに吉濱家の就寝時の風習として、10数年にわたり頑なに引き継がれていく「あの並び順」の起源となるのだが、それはまだ、誰も知らない話である。
4つの安らかな寝顔を、確認した。確認してしまった。
その瞬間、1日じゅう張り詰めていた糸という糸が、尊の中でいっせいに切れた。
ズルズル……。
ベッドの柱に預けた背中が重力に負けて滑り落ち、そのまま畳の上へ、ぺしゃりとへたり込む。




