issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 13
室内は、地獄絵図だった。
アシュリーは、のどちんこが飛び出さんばかりの大口で絶叫し、
その口の端から、ちろちろと不穏な赤い火の粉を散らしている。
さなはパニックの明滅を繰り返しながら、性懲りもなくふたたび天井へと浮かび上がろうとしている。
そして、おせち。彼女だけは今度も泣き声ひとつ上げず、
無表情を崩さない。崩さないまま――その大きな瞳から、
大粒の涙だけが、滝のようにとめどなく溢れ出ていた。
彼女たちの前には、はちるがいた。
手足は短く、耳もまだ立っていない。顔の中心にパーツがきゅっと寄った、ずんぐりと丸い、
未熟な四つん這いの獣。神が造形したとしか思えぬ、愛くるしさの結晶のようなその顔が――今、
湛えられる限りの敵愾心で満たされ、土壁の大穴をくぐってきた侵入者を、じろりと睨み据えていた。
尊の足が、凍り付いた。
(……近づかねば。あやさねば。親として、この場を鎮めねばならん……!)
頭では分かっている。分かっているのに、足の裏が畳から剥がれない。
神代より数多の魔と渡り合ってきた本能が、全力で警鐘を打ち鳴らしているのだ。
――へたに間合いへ踏み込めば、次は壁では済まぬ。この屋敷ごと粉砕される、と。
馬鹿な、相手は生まれたての赤子ぞ。そう笑い飛ばそうとして、笑えなかった。
背中に残る石灯籠の激痛が、その予感を裏書きしている。あるいは、
この子はもう――自分より、強いのかもしれないのだ。
「あ、あわ……あわわ……」
両手は所在なく宙を泳ぎ、こめかみを脂汗が伝う。世界を鎮める神が、体重5kgの毛玉を前に、
1歩も動けない。ヒリつくほどの「圧」が、確かに部屋を支配していた。
膠着を破ったのは、はちるの側だった。
「ひっ!」
尊が情けない声を上げて身構えた――それが、豪快な肩透かしとなった。
はちるは睨みをあっさりと解くと、尊のことなどもはや歯牙にもかけず、くるりと踵を返した。
そして、泣きはらす3人の姉妹たちのほうへ、トタトタと這い寄っていく。
(何をする気じゃ?――)
と、尊が息を呑んで見守る先で、信じがたい光景が幕を開けた。
それは、狩りだった。
最初の標的は、頭上。恐怖で制御を失い、ふたたび天井近くまで浮かび上がっていた、
さなである。はちるの視線が、宙を漂うおくるみの端へと、狙撃手のように吸い付いた。
ずんぐりとした後ろ足が、畳を深く、深く踏みしめる。
溜められたバネが――炸裂した。




