issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 12
「ば、馬鹿な……わしは、山とて動かせるのじゃぞ……!」
額に脂汗を浮かべ、尊は丹田から神通力を練り上げた。腰を落とし、満身の力で、
大根を抜くがごとく強引に引っこ抜きにかかる――
その時、はちるが、身じろぎをした。
まとわりつく手を払う、ほんのささやかな寝返り。彼女にとってそれは「さわらないで」という意思表示、ささいな抵抗心の発露――ただ、それだけのはずだった。
ブンッ!!
だが、その些細な身動きの生んだ運動エネルギーは、
至近距離から放たれた砲弾の直撃に匹敵した。
尊の体が、小石のように弾け飛ぶ。
1枚目、障子。木枠ごと紙細工のように突き破る。
2枚目、土壁。数100年もののそれを、粉塵の花火に変えて貫通する。
そして屋外――夕闇の中庭を一直線に横切った神の背中は、石灯籠に真芯から激突し、
そこでようやく止まった。
「……が、はっ……!」
ぐらり、と傾いだ灯籠の宝珠が、とどめのように頭上へ落ちてくる。
それを額で受けながら、尊は舞い上がる土埃の中、痛む体でおのれの目を疑っていた。
(……なんじゃ、あの子は。今のは、わしの知る「力」ではない……)
あの小さな獣の肉体には、この世の物理法則を平然と彼方へ追いやる、桁外れの何かが圧縮されている。撫でようとして潰され、抱こうとして砕かれる――愛すべき我が子に、文字通りひねり潰されかねないという根源的な恐怖が、背筋を走る鋭い痛みと共に、彼女の脳裏を駆け抜けた。
そして、激突の轟音は、この世の終わりのような響きとなって屋敷全体を揺るがし――その直後。
「オギャアアアアアッ!!」
「フギャアアアアアッ!!」
破壊の余韻を上から塗り潰す勢いで、3人分の泣き声が爆発した。
壁にぽっかりと空いた大穴から夕方の風が吹き込み、土煙が部屋の中へとなだれ込んでいる。
轟音と、崩落と、見知らぬ風。生まれて初めての「この世の終わり」に、赤子たちの恐慌は当然だった。
「ぬあああ!すまん!すまんかった!今戻る、今戻るぞ!」
尊は背中の激痛をねじ伏せて跳ね起きると、玄関へ回る時間すら惜しみ、
たった今おのれの体で開通させたばかりの壁の大穴を、転がるようにくぐって帰還した。




