issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 11
吐き戻しの火傷。漂流する発光体。小指の万力。畳の掘削現場。
――四正面同時作戦。神代より数多の戦場を渡ってきた尊をして、
これほど絶望的な戦況は、はじめてだった。
「痛い痛い痛い!折れる!母の指が折れるわ!」
まずは小指の解放である。おせちの5本の指を1本ずつ、こじ開けては押さえ、
こじ開けては押さえ――赤子相手に全力の関節技の攻防を強いられた神は、
ようやく我が指を取り戻した。鷲掴みの主は、不服そうに口をへの字に曲げただけだった。
「次っ、さな!降りてこい!天井は埃がたまっておるぞ!」
が、説得が通じる相手ではない。尊は文字通り宙を蹴って跳び、鴨居の高さを頼りなく漂流する光の繭を、両腕でむんずと空中捕獲した。腕の中で明滅がすこし落ち着く。よし、と長持へ寝かせて、
返す刀で振り向いた。
「――こら、待たんか!畳はっ!食い物では……!ないぞ!」
残るは、掘削現場のはちるである。
青い藺草の紙吹雪を撒き散らす毛玉へ、尊は大股3歩で肉薄した。掘る、掘る。
こちらには一瞥もくれない。神は嘆息し、その小さな両脇へ手を差し入れると、
現場から強制退去させるべく、ひょいと持ち上げ――ようとした。
……瞬間、世界の様子がおかしくなった。
「……ぬ?……ぬ、ぬおおお!?」
持ち上がらない。
微動だにしない。腕に伝わるのは、赤子の柔らかさではなく、大地に根を張った巨木の、
あの絶対的な拒否の感触である。まるでこの毛玉の座標だけ、
重力が数100倍に歪められているかのようだ。見た目は5kgあるかないかの膨らみが、
星の芯と直結している。




