issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 08
3人目は、ことさらに肌の白い、あの泉の娘である。
――これが難航した。蓮の花。天使。木漏れ日の柱。手掛かりは山ほどあるのに、
どれも名前にならない。「はす」ではあんまりだし、「いずみ」はどうにも安直で、
天使どもへの癪も混じる。
「う~む……」
唸った尊は、藁にもすがる思いで、畳の上に積まれた古雑誌の1冊を引き寄せた。
パラ、パラ、と紙の鳴る音。舞い上がる古い印刷の匂い。星占い、料理欄、読者投稿――めくれども、
めくれども、これという文字は目に飛び込んでこない。
やがて弾く頁も尽きようかという最後の見開きで、指が、ふと止まった。
クロスワードパズルの回答欄。その白いマス目の中に、2文字だけ、最初から印刷されて居座っているヒントの文字があった。
「さ」。そして「な」。
「…………お前は『さな』じゃ」
空欄だらけの盤面に、その2文字だけが、妙に晴れやかに見えたのだ。
「うむ。この上なく合理的な判断じゃ」
誰に聞かせるでもなく、尊は自嘲気味にそう言い放った。
反論する者は、この部屋にはまだひとりもいない。
そして、最後の1人へと向き直る。
毛むくじゃらの獣人の娘。空の彼方から、丸いポッドに乗って寺の前庭へ「配達」されてきた、
あの子である。
眠るその顔は、生まれたての子ネコよりもなお愛らしかった。
ふかふかの頬。ひくひくと夢を追う小さな鼻。閉じた瞼のあどけなさは、
これまでの3人の中でも群を抜いて穏やかで、見ているだけで胸の奥が緩んでいく。
(……この子は、「みちる」じゃな)
満ちる月のような、柔らかく円満な響き。我ながら良い名じゃ、
と尊が口に出しかけた――まさに、その瞬間だった。




