issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 07
報告
おせちのデザインが決定稿になった
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世の準備万端な親たちであれば、ここからが本番だろう。姓名判断の書物を枕元に積み、
画数を数え、縁起を担ぎ、社に詣で、祖父母の意見と流行とを天秤にかけて、
ひと月でもふた月でも唸り続ける。我が子の一生を背負う2文字3文字である。
それだけの手間をかける価値は、たしかにある。
……だが、彼女の身の上に、そんな優雅な選択肢は残されていなかった。
なにせ、たった半日で4児の母である。この先の生活に、余裕という文字は1画たりとも含まれていないことがすでに確定している。ならば悩む時間さえ惜しい。
幸か不幸か、命名とは神域の職掌――山にも川にも国にも、彼女はかつて名を与えてきたのだ。
(要するに、いつもの仕事じゃ。……よし、この場で全員、片付ける!)
神は袖をまくった。
……まずは左端。オレンジ色の髪がすでにだいぶ生えそろった、あの重箱の娘である。
川原の朝日。黒漆の艶。一の重で眠っていた、おせち料理ならざる中身。
「お前は――『おせち』じゃ」
即決だった。0秒である。これ以上の理由も、これ以外の候補も、彼女の中には存在しなかった。
名付けられた当人は、あずかり知らぬ顔ですやすやと眠っている。
「――」
続いて、隣の赤毛。こちらにも手掛かりがあった。彼女が詰まっていた、
あのユニオンジャックを臆面もなく全面に刷ったクッキー缶である。
その極彩色を見つめるうち――尊の脳裏に、1枚の写真が鮮やかに蘇った。
あれは2010年、ワールドカップの年。場所は南アフリカ、ロイヤル・バフォケン・スポーツキャンパス。揃いのスーツに身を包み、国の期待を一身に背負って現地へ降り立つ、イングランド代表の面々を収めた報道写真だ(なぜ神がそんなものを覚えているかといえば、大会の勝敗にいささかの金銭が絡んでいたからだが、それはまた別の話である)。
ルーニー、ランパード、ミルナー、テリー、ジェラード……並み居るスターたちの、
その後列。人垣の奥から顔を半分だけひょっこりと覗かせていた男、アシュリー・コール。
なぜだか、その姿が、眼前ですうすう眠る赤子と重なって見えた。理屈ではない。強いて言えば、
面構えである。
「……アシュリー。うむ、アシュリーじゃ。たしかあの名は、おなごにも使えるはず。……使えるじゃろ。うむ、使える。決まりじゃ!」
疑問を自力でねじ伏せ、彼女は赤子に指を突きつけた。命名の決まり手は、
缶と、30年近く前のうろ覚えの写真。それだけだった。




