issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 03 02
始まりは、朝方の川原だった。散歩の途中、橋の下にぽつんと取り残された黒塗りの箱が目に留まった。誰が置き忘れたか、料亭の仕出しにでも使いそうな上物の重箱だ。不審に思って蓋をずらせば、
伊達巻も数の子も入っておらず、かわりに一の重で、オレンジ色の産毛の赤子がすやすやと眠っていた。朝日を吸ったその髪は、小さな熾火のように燃えて見えた。
(……何かの間違いか?しかし、親を探してやらんとな……)
重箱ごと抱えて寺へ戻った、まさにその足で、今度は山門の方から「オギャア」と聞こえた。
門前に鎮座していたのは、英国旗を臆面もなく全面に刷った、異様に大きな洋菓子の缶。
蓋を外せば、中には赤毛の子がみっしりと詰まっており、
尊と目が合うなり、宣戦布告さながらの泣き声を張り上げた。
(……2度あることは、と言うが)
3度目は、裏山の泉だった。胸騒ぎに導かれて分け入れば、
木漏れ日が水面へ幾筋もの光の柱を落とし、その中心で、翼の生えたふくよかな童子がふたり、
巨大な白い蓮の花を水へ浮かべる作業の真っ最中だった。西洋の管理霊――キューピッドである。
彼らは物陰の尊に気づくや、あからさまに顔をしかめた。
『ちょっとちょっと!今いいところなんだけど!?』
『奇跡ってのはね、発見者の"初見の感動"が命なの!段取りが済むまで、よそ行っててくれる?』
あろうことか、土地の神が追い払われた。やがて『もういいよー』と間の抜けた声がかかり、
しらじらしく今来た体で泉に歩み寄ってやれば――白い花弁の中央で、
この世のすべてに安寧をもたらすかのような寝息を立てる、抜けるように肌の白い子がひとり。
(……霊界の連中め。人の山をなんだと思うておる)
そして4人目にいたっては、もはや「拾う」という手間さえ要らなかった。
寺の前庭に「ドカン」である。空を裂いて墜落してきた丸い金属のポッドが土煙を巻き上げ、
長い火炎のわだちを刻み、ハッチが開いたかと思うと、
中から毛むくじゃらの赤子がころんと転がり出てきた。
川でも山でもない。宇宙からの、直接配達だった。




