issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 33
「なっ……!」
青ざめた尊は、息の詰まったような悲鳴を上げる。
「……マクロっ……すまぬ、このわしをどうか許せ!」
彼女は床に這いつくばり、彼と同じ目線の高さになって必死に謝り倒した。
そこには悪気も、その時の善意に対する疑いもない。
だからこそ、彼女の行為は、誰にも止めがたい災厄なのだった。
*
診断から2週間が経過した。吉濱家の穏やかな日常は崩れ去り、
そこは「介護」という名の終わりのない戦場と完全に化していた。
「……あーもう!じっとしてろって!」
リビングの中央で、アシュリーが尊の背後から両腕を回し、強引に羽交い締めにしている。
乱れたパジャマ姿の尊は、焦点の合わない瞳で虚空を睨みつけ、暴れ回っていた。
「放せ! 放さんか無礼者!街が燃えておるのじゃ!魑魅魍魎が溢れ出しておる! わしが行かねばならん!」
「燃えてない!魑魅魍魎もいない!それは昨日の時代劇の再放送かなんかだろ!」
「ええい無礼者!わしを誰だと思うておる、八百万の神軍、その一番槍、吉濱尚猛尊じゃぞ!」
バリバリと空気が震えるほどの咆哮。アシュリーは脂汗を流しながら、
それでも懸命に彼女の背中にしがみついた。
「わかった……!猛ってんのはすごく伝わってくるから大人しくしろって!!!」
尊は手足を無茶苦茶に振り回し、彼女にしか見えていない敵との交戦を続けている。
その肉体に宿る力は、弱ってなお常人を大きく凌駕していた。
アシュリーが本気で抑え込まなければ、その余波だけで家屋が倒壊しかねないほどのエネルギーが迸っている。




