issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 32
翌日の午後。 家の薄暗い廊下で悲鳴にも似たうめき声が響いた。
みれば、マクロブランクが顔を真っ青にして宙に浮いている。
その首には、尊の腕が蛇のごとく巻き付いていた。
「よしよし……泣くでない!怖い夢でも見たか?だが案ずるな、この母がちゃんとここについておるからな……」
尊は慈愛に満ちた表情で、彼をあやしていた。だが、その目に映っているのは、
奇怪な脳髄の怪物などではない。幼い頃、夜泣きをしてすがりついてきた娘の誰かの幻影だ。
問題なのは、その抱擁に込められた力が、愛情の深さに比例して常軌を逸していたことだ。
「ぐ、ぐぐ……っ!みこと……頭……ちゅぶれ……ッ!」
「あーっ!ママ!ダメだってば!」
騒ぎを聞きつけたはちるが、慌てて2人の間に割って入る。獣人の瞬発力で尊の剛腕を掴むと、
力づくでその戒めを外しにかかった。
「それ、アシュリーじゃないよっ!……マクロだよっ!離してあげてって!」
「なんじゃみちる!?何をするッ!!?」
「……ウチのこと見て!ウチ子供じゃないよ!!この家にはもう、ちっちゃな子供なんていないのぉ!」
「では、これは誰じゃ?」
「誰でもいいから!死んじゃうから!」
ミチミチと音を立てて、ようやく尊の腕が引き剥がされる。
「――!」
解放されたマクロブランクは、形を崩したゼリーとなって床へ無様に崩れ落ちた。
触手を使い、なんとか、その場からわずかでも逃れようと這いずり回る。
「へぇ……へぇ……!」
口の役目をなすギザギザした亀裂の真下には、くっきりと赤い腕の跡が残っていた。
あと数秒遅ければ、熟れた果実のごとく破裂していた未来がありありと想像できる。
「もう……ホントに死ぬかと……宇宙の深淵がずっと目の奥でチカチカしてまちたよ……」
「ごめんねマクロ!大丈夫!?」
はちるが剥き出しの大脳皮質をさすって慰める横で、尊は不思議そうに小首を傾げている。
そしてようやく、彼が新参の家族たるマクロブランクなのだと気が付いた。




