issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 30
しかし、息を切らせたおせちが現場へ駆けつけてみると――そこにあったのは、
拍子抜けするほど平然とした、母の立ち姿だった。
尊は竹箒を1本、行儀よく手に携え、家主のサトウを相手に応対の真っ最中だった。
背筋は伸び、声は落ち着き払い、言葉の運びには一点のよどみもない。
町内会の広報にでも載せたいような、ご近所付き合いの手本がそこにいた。
「……いやなに、ずいぶんと放っておかれた様子じゃったのでな。すこぉ~しばかり、余計なお世話かのう、とも思うたんじゃがな。どうにも見過ごせんでの、そのぉ~……つい、体のほうが先に動いてしもうたわけじゃ。しかしまあ、お主も得をしたのう?これでもう、庭師を呼ぶ金は浮いたようなものじゃて」
「は、はあ……いや、実際、助かりました……」
サトウは、気の抜けた声で頷いていた。頭の中に用意してあったはずの苦情の下書きが、
聞いているそばから御礼の文面へ書き換わっていく。
それほどまでに、目の前の老婦人の弁は筋が通っていた。
駆けつける道すがら、おせちが組み立ててきた謝罪の口上も、行き場を失って宙に浮いた。
(……なんだ、今日の母さんは、大丈夫な日なんだ――)
強張っていた肩から、ふっと力が抜けかける。
「……母さん!」
そう呼びながら、彼女が輪の中へ1歩踏み込んだ――まさに、その瞬間だった。




