issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 29
腰を丸め、湿り気を含んだ土から、雑草を1本ずつ引き抜いていく。
ぷつ、ぷつ、と根の切れる小さな音が続く。庭の隅に転がっていた錆びた平鍬を拾い上げれば、土を1層ずつ丁寧に起こし、地面を鏡のように平らへならしていった。
合間には、上機嫌な鼻歌さえ混じっている。
その瞳に映っているのは、目の前の荒れ地ではない。調和を取り戻した庭の完成予想図――彼女にだけ見えている青写真だ。奉仕の欲求はすでに歯止めを失い、1時間と経たぬうちに、庭の半分が、落成したその日のような顔に戻っていた。
彼女は3日間、その場所へ通いつめた。
今日の作業は、軒下の蜘蛛の巣だ。張り巡らされた銀色の網を、竹箒の先で1つずつ、
几帳面に掻き取っていく。庭の一角には、この2日間で引き抜かれた雑草が、
干し草めいた匂いを放つ小山となって積み上がっていた。
そこへ姿を見せたのが、この空き家の地主、サトウだった。
彼の記憶にある自邸は、1年以上も放置された藪の塊のはずだった。例年ならそろそろ、
庭師へ手入れを頼む算段を始める頃合いでもある。ところが目の前に広がっているのは、
その必要をまるで感じさせない、整いきった庭。サトウは思わず足を止め、番地でも確かめるように、
表札と敷地を何度も見比べた。間違いなく、自分の家だ。それなのに、記憶と風景が、
どうしても繋がらない。
そしてその只中に――竹箒を手に、軒下の巣を払い続ける小柄な女性の姿を見つけた。
どこかで見た顔だ。彼はポケットの携帯電話を、念のため、と握りしめる。
「……あの。よ、吉濱さん、ですよね?こんなところで、おひとりで……何を、されてるんですか?」
問いかけに、箒の動きがぴたりと止まった。尊はいちどだけ振り返る。その顔に浮かんでいたのは、
どこまでもころころとした笑みだった。
「おお、家主の方ですかな。ちょうどよいところに。……この家も、ずいぶんと汚れが目立っておりましたがな、あと少しで、残さず清められそうですじゃ。ま、茶でも淹れて、座って待っておるがよろしい。じきに終わりますゆえ……」
言い終えると、彼女はもう箒の仕事へ戻っていた。
受け答えの表面は、なめらかだった。丁寧で筋も通っている。
だがその下の地層が、決定的などこかで、ここではない別の場所へ繋がっている。
質問には答えているのに、会話はどこにも届いていない――その、
名前のつけようがない薄気味悪さに肌を粟立たせたサトウは、その場で吉濱家へ1本の電話を入れた。
呼び出し音は、1回目を鳴らし終えることすらできなかった。
まるで受話器の前で待ち構えていたかのような早さで回線が繋がり、
おせちの、悲鳴とほとんど区別のつかない切迫した声が飛び出してくる。
「はい、吉濱です!……はいっ、サトウさんですね!?母が……!大変申し訳ありません!すぐに伺いますので、どうかそのままにしてください!」




