表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#06 I I I Little Talks

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
724/771

issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 26

だがその返事は、彼女のどこにも着地しなかった。

言葉が届く前に蒸発したのか。それとも彼女の世界には、

最初からこの銀色の相棒が存在していないのか。尊はひとつ頷くと、

まったく澄んだ顔のまま、次の話題へ橋を架けた。


「そうかそうか。……ところで、近頃はめっきり日の落ちるのも早うなって、

寒さも増したのう。風邪なぞひいておらんか?1枚多めに着込んでおくんじゃぞ」

3度目の問いだった。勉強。自転車。風邪。会話のキャッチボール自体は続いているのに、

少年の投げ返した球だけが、毎回、途中でどこかへ消えていく。


「は、はい……元気です。おばさんこそ、気をつけてください。……じゃあ、僕、これで……」

戸惑いながらもそう答え、少年はハンドルをそっと進行方向へ戻した。肌の表面を刺すだけの夕暮れの冷気とは、まるで質の違う何か――服の内側へ直接入り込み、背骨の際をゆっくりと撫で上げてくる冷たさが、この時すでに、彼の背中を登りはじめていた。


「うむ。何よりじゃ、健康が1番じゃ」

尊は深く、あまりにも深く頷いた。夕焼けの赤が、その瞳の表面で燃えている。


――表面で、だけ。


硝子玉に映り込んだ炎のように、光はどこまでも上滑りして、奥へは1mmも届いていない。

彼女は腕を組み直した。そして、たった今この場に天啓が降りてきたと言わんばかりの、

曇りひとつない顔つきになって、膝でも打ちそうな調子で言い放った。


「寒さ対策にはのう、自転車を漕ぐのが1番効くんじゃ。

……ほれ、わが家に1台あるのは知っておろう?あれは、いらんか。

あれさえあれば、体なんぞすぐ温まるぞ」

少年の喉の奥で、ひゅっと息が詰まった。


恐ろしいのは、これが「繰り返し」ですらないことだった。彼女の内側でこの提案は、

紛れもなく、たった今生まれたての新しい話題として会話へ接続されている。

つまり、ほんの数10秒前のやり取りは――水書きの紙に書いた文字が、

乾いた端からすうっと消えていくように、彼女の中から跡形もなく揮発しているのだ。


理解は、恐怖より1歩遅れて追いついてきた。

目の前にいるのは、近所のよく知ったおばさんではない。おばさんの輪郭だけをそっくり保ったまま、

こちらの言葉が一切内側へ届かなくなった、別のなにかだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ