Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 29
「そうだ、今からこの人に事の真相を全部吐かせなきゃ」
と、路上で伸びたままのプロディジーを改めて見やったおせちが言う。
「いやよい。そういったことはもう官憲に任せようではないか。1人はもう捕まえたし、
とにかくシャカゾンビが今回の1件に関与しておる証拠は、これでもう確保できたも同然よ」
「…………」
……その”異変”を最初に察知したのは、
「……!!!」
やはり、家族の中でも霊感の強いさなだった。
瞳孔が収縮し、表情が凍りつく。視線ははるか彼方の空へと向けられ、その、ぎこちないにも
かかわらず振れ幅の大きい一挙一動に、
周囲もたちまちざわめきだした。さなの「重要な場面での気づき」にはいつも、
因果律すら超越した予知の力が宿っているということを、一家の誰もが知っていた。
はたして次の瞬間――澄み切った青空に、1本の白い飛行機雲が刻まれる。しかしその軌跡は自然なものではない。真っ直ぐに、レーザーのような精度で通りの上空を射貫いてくる1発の飛翔体。
……ミサイルだ!
「いかん!」
オールラウンダーは体をひねって瞬時に地を蹴り、両の七支刀を斜めに振りかぶりながら、
凄絶な勢いで迫りくる弾頭へと突進する。刀身が空気を切り裂く音が甲高く響き、彼女の小さな体躯が一瞬、衝撃波を纏う。
しかし、そのミサイルは、ただの弾頭ではなかった。オールラウンダーが斬り込んだ刹那、
ズバババババアアアッ!!
花火のごとく空中で炸裂し、無数の小さな破片――いや、“種子”が四方八方へと撒き散らされたのである。それは、大型のクラスター爆弾だった。
炸裂する光と音が空間を満たし、小爆弾が雨のように道路に降り注ぐ。
「ぐゥッッ……!」
終わりなき爆発の連鎖。オールラウンダーの小さな体は、その業火の渦の中心で完全に翻弄される。七支刀の刀身が必死にあがいて何発もの破片を弾き飛ばすが、雨霰と降り注ぐすべての攻撃を捌ききることなど、到底不可能だった。
街の全方位、360度に拡散していく無数の爆弾。すでに瓦礫の絨毯と化していた通りでは、
石と鉄の残骸がさらに細かな粉塵となって舞い上がり、痛ましいまでに傷ついたビル群が新たな爆風に悲鳴のような軋みを上げる。
地上にいた4人の娘たちも爆発の連鎖に飲み込まれ、地を這う衝撃波が容赦なく足元をすくっていく。
爆撃のちょうどおさまった頃、通りの真上の空間が、ふと歪みを帯びていく。
巨大な航空機が、まるで透明な皮膜を脱ぎ捨てるように光学迷彩を解除していったのだ。
装甲の表面に走る電子的な波紋、そして現れる黒鋼の機体……。
その機体の腹部ハッチから、漆黒の人影が1体――地上を見下ろしながら、重力に逆らうような優雅さで跳躍する。
着地の瞬間、周囲のコンクリート片が弾け飛んだ。
「……会いたかったぞ、オールラウンダー!
どちらかが死ぬまで決着のつかん戦いなど、世の中腐るほどあるが、死んでも終わらん戦いはここだけのようだな!!ヒィーッハッハハハ!!」
シャカゾンビ――あの悪夢の王が、狂気に満ちた哄笑と共に、戦場の頂点へと降臨したのだった。
「シャカゾンビっ、貴様っ!!」
咆哮と共に、オールラウンダーがその眼前に着地する。瓦礫が足元で砕け散り、2人の間に静寂の瞬間が訪れる。
対峙する古代インドの邪悪な聖仙――シャカゾンビは、白骨化したヤギ頭の杖を天に掲げ、青い骸骨のその口でうすら寒い笑みを浮かべていた。
「はァ~ン……!」
笑い声の延長として、男の声が不気味に響く。
杖を握った彼の手が虚空に一際高くかざされるや、四方の電線や配電盤、はるか彼方の鉄塔までもが不気味なうなりを上げて呼応し始めた。
――バチバチィッ!
またたく間に都市全体の明かりが次々と明滅し、街頭テレビの放送や看板、ビルの照明がひとつずつ脱落していく。電線の中を奔る電流が吸い寄せられるように波打ちはじめ、無数の閃光が電柱から青白く染み出す。
小さな放電が始まると、大気そのものが一斉に帯電し、髪や衣服が逆立つほどの静電気が街を満たしていった。
空の方々から来る縮れた稲妻が、刺々しい音を立てて、杖の1点に集中する。刹那、シャカゾンビの杖が勢いよく前へと倒されれば、ついに東京の1地帯中の電力は根こそぎ引き抜かれ、青白い極太の電流が、ただちにオールラウンダーへと叩きつけられる。
昼間の太陽光さえ圧倒する閃光と共に、地面には歪んだ影が焼きつけられ、続く烈風がすべてを巻き込んでいく――。




