Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 28
どう応えるべきか、誰もがいっとき逡巡する。
やがて、皆を代表して立つおせちの口が重々しく開かれた。
「……あのミサイルの落ちたところで聞いた母さんの話は、たしかに一理あったよ――」
だけども、はじめの内その言葉は訥々として、語句を慎重に選ぶような響きを帯びていた。
「――でも安全な場所で過ごした日々には、思ってたより意味がなかった」
そこまで言ってから、おせちは静かに息を吸った。
何かが、腹の底から言葉を押し上げてくるようだった。
「……気付いたんだ。最終的に起こることが戦争なら、座っていようが立っていようが、結局はみんな危ない目に遭っちゃうってね――」
「――だから私たちは立ち上がる方を選んだんだ。ヒーローになりたいからじゃないんだよ? "出来るかもしれない"人間が、それをするしかないって――みんなでそういう結論になったんだよ」
語り終えた彼女の声には、もうためらいの影もなかった。訥々と言葉を探すところから始まったそれは、いつの間にか、まさに決定版と呼ぶほかない、堂々たる意志表明へと変じていた。
「……他の子らも、本当に真心からそう思うておるか?」
窮した尊が念を押すと、全員がそれぞれの間合いで――しかし、確かな決意のこもった表情で、静かに頷いてみせた。
尊は一瞬、まなじりを険しくしたまま皆の顔を見渡したが、
やがて目元をわずかに緩ませ、口調もいくらか和らげる。
「……そうか。清いのう。あの日、わしが身寄りのない子をいきなり4人も引き取ったのは……やはり、天のご聖旨だったんじゃろうな。こうも非凡に育ちもしたのは、なればこそのことであったか……。うむ、その答えこそまさに、わしの恐れとったものよ」
「なんだよ、回りくどいな!」
アシュリーが茶々を入れる。
尊は複雑な表情で娘を見やり、長年の経験からくる重い予感を胸に抱えながら、言葉を選ぶように口を開いた。
「いやのう……なんといえばよいか……。わしの経験上、そういうな、はじめはやむにやまれぬ事情で仕方なく立ち上がった者こそ、気が付けばヒーローという因果な稼業には永いこと関わり続けてしまうものなんじゃ。
ソレになりたくてなったやつなんぞより、よっぽどのぅ……。
そして、正義をひたすら己が指針として生き抜いた者の末路は、誰しも例外なく、
その魂を摩耗し尽くして――いずれ静かに消えていくものじゃ。
わしが見てきた限り、ほんとうの意味で「正義」だけを貫き通せた者など、ひと握りもおらんかったよ……」
娘たちの純粋で――そして、「向こう見ず」の別名ともいえる揺るぎない意志を前にして、尊の心は引き裂かれるような思いだった。
彼女たちを誇らしく思う気持ちと、この先に待つ過酷な運命への恐れが交錯する。
「……因果因果、まっこと因果なことよ……うぅ~~~む……」
新たに生まれ落ちたこの荒野を、風が容赦なく吹き抜ける。
その音は、彼女の胸奥から漏れる深いため息とも折り重なり、煙と静寂の狭間で、ただ時間だけが静かに歩みを進めていた。
やがて、有角の貴女は、娘たちの覚悟の芯を――透徹とした眼差しの奥に、もう1度だけ探し出す。
そしてその強さを、そっくり自らの心へと引き写す。
反対の言葉を重ねることの空しさを悟り、彼女はようやく――
せめて見守る者として、この運命を共に歩もうと決めたのだった。
「……あいわかった。今回のことだけは目をつむろう。その後のことは、あらためて家族会議じゃ」
彼女は、しみじみとした口調でそう宣言した。その言葉を受けて、3人は思わず色めき立つ。予想外の理解を示した母に、娘たちは安堵と驚きを隠せずにいた。
「おい、何気ィ持たせてんだババア、結論から先に言うのがデキる社会人だって先輩に教わらなかったのか?」
ただ、アシュリーだけは表向き喜ばずに、すかさず母に突っ込みを入れるので、
「うるさいわ!」
尊は苦笑いを浮かべながらそう応じる。
爆心地の残光を背に、親子の間には抑えきれぬ微かな笑いが満ちる。
重いやり取りの後だからこそ、この何気ない応酬が心地よく響いた。
戦いの幕はひとまず下り、都市の高い日差しだけがその上に淡くかざされていた。




