issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 21
窓の外から射し込む茜色の光が、診察室の白い壁を毒々しいほどに染め上げている。
室内は、息をするのもためらわれる重圧に満ちていた。
白衣をまとった医師は、鼻からずり落ちかけた眼鏡を中指で押し上げる。
彼は喉奥に詰まった言葉を吐き出すタイミングを計りかねている様子で、
視線を彷徨わせてから口を開いた。
「……非常に申し上げにくいのですが」
椅子に座る4人の娘たちが、一斉に背筋を伸ばして医師の次の言葉を待つ。
対照的に、尊だけは関心をあえて逸らし、窓ガラスの向こうを飛ぶカラスの群れを目で追っていた。
「医学的な……いや、生物学的な見地からは、私には何も断定できません。
お母様の体は、現代医学の常識からは逸脱しています。脳の萎縮があるのか、血管に詰まりがあるのか、それを物理的に確認する術がありません」
医師はそこで一度言葉を切り、意を決しておせちの瞳を正面から見据える。
「ですが、心理検査の結果と、みなさんからのヒアリングに基づき、
『行動と症状』の観点からのみ診断させていただくならば……。
お母様は、いわゆる『認知症』の初期段階にある、と言わざるをえません」
「……っ」
ある程度の覚悟は決めていたはずだった。
それでも、専門家の口から明確な病名としてそれを突きつけられた現実は、
重みを増して、4人の胸の奥底へと沈み込んでいく。




