issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 20
日記
ロドリ
HWGを待つ
接触の寸前、拒絶反応が起きた。
「何をする、無礼者!」
叫びと共に、青白い火花が弾ける。 看護師の手の中で、
硬質なステンレスの針が瞬時に赤熱し、形を保てずに崩れ落ちた。
「ひっ!?」
看護師は悲鳴を上げ、床に尻餅をつく。
「……あー、先生。すみません」
一部始終を見ていたおせちは血の気を失い、椅子から身を乗り出した。
「母は……その、体質的に、身体的な検査ができないんです。
レントゲンもMRIも、たぶん何も映らないか、機械が壊れると思います」
「はぁ……?どういうことですか?」
白衣の医師は間の抜けた声を漏らし、鼻からずり落ちた眼鏡を指で押し上げた。 彼の手元にある銀色のステンレストレーの上では、異様な光景が湯気を立てている。先ほどまで尊の腕を狙っていた注射針は、もとの鋭さを完全に喪失していた。高熱に晒された飴細工のようにドロリと歪み、不定形の金属塊となって微かな白煙を上げている。
「……信じられないかもしれませんが、母には内臓がないんです。というか、肉体そのものが……高密度のエネルギーの塊のようなものでして。おそらく、私たち姉妹も似たような構造をしているかと」
「…………」
医師は絶句し、視線をトレーの上の残骸と、眼前の親子たちへと交互に走らせる。
常識で考えれば、精神を病んだ患者の妄言と断じるところだ。だが、
物理法則を無視して溶解した医療器具という動かぬ証拠。娘たちの真摯で嘘のない眼差し。
そして何より、診察台に鎮座するこの患者から放たれる、生物としての格の違いを見せつけるような得体の知れない「圧」が、その説明を否定することを許さなかった。
「なるほど。報道やテレビなどで幾度となく拝見してはおりましたが、
実例を目の当たりにするまでは、にわかには信じ難いことでした」
医師は一つ咳払いをし、プロフェッショナルとしての仮面を被り直す。
彼は相手がただの人間ではないことを受け入れ、マニュアルを脳内で書き換えた。
「では、今からはカルテット・マジコのみなさんと、その――」
一瞬の躊躇。だが、彼は意を決して続けた。
「――神霊であらせられるお母様の吉濱尊さん、という扱いで、
お話しさせていただいても構いませんか。私共の方にもプライバシー保護の観点からの守秘義務や、
特殊診療に際してのガイドラインなどがございまして」
「大丈夫です。それでお願いします」
結局、診断は身体的な検査をすべて放棄し、
長時間のカウンセリングと認知機能テストの結果のみに基づいて下されることになった。




