issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 17
総合病院の待合ロビー。白1色で統一された清潔な空間の最奥にて、
彼女たちを待ち受けていたのは、笑顔を張り付かせたヒューマノイドと、
回避不能な手続きの壁だった。
受付業務を担当するヒューマノイド・ロボットは、人
間よりも数段滑らかな所作で5人に対し深々と一礼をする。
「本日はどのようなご用件でしょうか。初診でしたら、保険証をお預かりします」
「あー……ないです」
アシュリーが気まずそうに視線を泳がせ、ポリポリと後頭部を掻いた。
予期せぬ回答に、ロボットの表情筋を模したシリコンがピクリと痙攣し、一瞬のフリーズを起こす。
「……お忘れでしょうか?現在はマイナンバーカードでも対応可能ですが」
「いえ、忘れ物とかじゃなくて。ウチの家族、誰も病気にならないから……そもそも持ってないんです」
「…………」
「だから、作ったことがないんです。保険証」
ロボットのカメラが絞られ、内部プロセッサが例外処理に追われる。
やがて、プログラムは無慈悲な結論を弾き出した。
「左様でございますか……。では、被保険者資格の確認が取れませんので、本日の診療費は自由診療扱いとして10割負担をご請求いたします」
「全額!?馬鹿な、その金でパチンコなら何回確変が引けると思うておる!」
尊が受付カウンターに身を乗り出して喚き散らす。だが、その抗議が完了するよりも早く、
「0回に決まってんだろ!」
アシュリーの掌が尊の背中へと強烈に叩き込まれた。 鈍い打撃音と共に、
尊の上半身が強制的に「承諾」の角度へと折り曲げられる。
5人が背を向け、その場を離脱してもなお、事務ロボットは構わず業務を続行する。
対象不在の空間へ、無機質な説明だけが垂れ流される。
「……当院は厚生労働省指定の保険医療機関です。診療報酬点数表に基づき算定しており、遊技機の確率変動および期待値は請求額に影響しません。お支払いは現金のみとなります」




