issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 16
翌朝、吉濱家は戦場と化していた。
「嫌じゃ!断じて行かん!病院など、そんなものわしが行く場所ではない!」
布団にしがみつき、亀のように手足を縮めて抵抗する尊。 それを四方から引っ張り、
剥がそうとする娘たち。
「いいから行くんだよ!昨日のアレは絶対おかしいって!」
アシュリーが掛け布団を強引に引き剥がす。
「そうだよママ!悪いところがあるなら、お医者さんに診てもらおうよぉ……!」
はちるが、母の腕を優しく、しかし有無を言わさぬ力で引く。
「放せ!わしは神じゃぞ!神がボケるなど、そんなことあってたまるか!これは単なる……そう、連日の激務による一時的な脳のショートじゃ!寝れば治る!」
「重力に逆らって立ってることが激務かよ!?カカシのほうがまだ鳥を追い払う仕事してるわ!」
アシュリーの食い気味な罵倒。遊興に明け暮れる日々を労働へすり替えようとした苦しい弁明は、
即座に粉砕された。
「……その、『寝れば治る』で1週間経ってるんだよ?」
おせちが冷徹にツッコミを入れ、既に用意していた外出用の着物を突きつける。
「観念して。……もし行かないなら、パチンコ屋の会員カード、ハサミで切るからね!」
「なっ!?……鬼か!お前は」
尊の鼻先数cmという距離へ、けばけばしい黄金の長方形が突き出される。
天井の蛍光灯を鋭く反射し、下品に煌めくプラスチックの板――パチンコ屋の会員証が、
彼女の視界を遮断した。生命よりも重いものを人質にとられ、尊の全身から抵抗力が抜け落ちた。
「~~ッ!!」
ようやく、不承不承、それはもう全身全霊で拒絶の意を示しながら、尊は外出の支度に取り掛かる。
その背中は、断頭台へ引き立てられる囚人のように萎縮し、哀れなほど小さく丸まっていた。




