issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 14
そうして、騒動は収束していった。
パトカーのサイレンが、吉濱家の石段の下から遠ざかっていく。
事情聴取が終わり、外出していた尊も帰宅して、はちるの部屋には、
ようやくいつもの夜が戻ってきた。
――戻ってきたのは、静けさだけだった。空気の軽さのほうは、いつまで経っても帰ってこない。
「……母さん」
おせちが、低い声で呼びかけた。
尊は娘たちの誰とも目を合わせようとしない。手元の湯呑みを、
意味もなく右へ回しては、左へ戻す。その中の茶は、もう、とうに冷めきっていた。
「……本堂の鍵、開けっぱなしだった。玄関もだよ」
おせちの声は責めていなかった。責めるかわりに、事実だけを、1枚ずつ卓の上へ置いていく声だった。
「……う、うむ。その、ちと急いでおったゆえな。ほ、ほれ、今日は『北斗』のイベント日での。
開店に遅れるわけには、いかんかったんじゃ……」
湯呑みをいじる指は止まらないまま、視線だけが畳の上を泳ぐ。
よりにもよって、選び出された言い訳は最悪の1枚だった。
「……ふっざけんな!!」
アシュリーの怒号が、かろうじて形を保っていた場の空気を、粉々に打ち砕いた。
事情聴取のあいだじゅう飲み込み続けてきたものが、いま一息に噴き出していた。
「パチンコに行きたくて鍵かけ忘れて、そんで泥棒に入られたのかよ!?
お前、ボケるにしたって程があるだろ!私らの帰りがあと少し遅かったら、
家財道具、根こそぎ持ってかれてたんだぞ!」
「う……。だ、だから、悪かったと言うておろうが!たかが戸締まりごときで、
そうも目くじらを立てるでない!」
尊は顔を赤くして言い返した。だが、その声は空回りしている。
張り上げた声量の芯に、いつもの太々しい自信が、1本も通っていなかった。
そこへ、はちるが口を開いた。
「……戸締まりだけじゃないよ」
「……なに?」
尊の動きが、止まる。




