issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 10
数日後の、夕暮れ時。
西の空では、頭上から染み下りてくる群青が、茜の名残をゆっくりと呑みこみつつあった。
その2色の境目の下を、補習を終えた4人が、鞄を提げて吉濱家の長い石段を登っていく。
1日ぶんの疲れを含んだ、間延びした足音が4つ石の上に重なっていく。
「……はちる?さっきから、何見てるの?」
石段の途中、ふいに足を止めて空を仰いだ姉妹へ、さなが不思議そうに声をかけた。
「ん?カラスの喧嘩」
視線の先、暮れかけの空の高いところでは、黒い点が2つ、もつれては離れてを繰り返している。
2羽のカラスの、縄張りを懸けた空中戦らしい。はちるは、ふあぁ、と大きなあくびをひとつ挟んでから、まるで他人事の口調で戦況を締めくくった。
「……あっちが勝つと思うんだよね」
「へえ?じゃ、私は反対側に賭けよっかな」
アシュリーがニヤリと口の端を吊り上げ、いかにも性根の悪そうな顔で乗っかってくる。
「はい、だめ!賭け事は禁止!」
間髪入れず、おせちのぴしゃりが飛んだ。その却下のあまりの速さには、
今のこの家の事情が、少しだけ滲んでいた。
そんな他愛もないやり取りを転がしながら、4人は山門をくぐる。
――その時だった。先頭を歩くはちるの獣耳が、ぴくり、と震えた。鼻先が小さく鳴る。
「……ん?なんか……知らない人の匂い、する」
警告とほとんど同時に、山の木々の涼やかなざわめきの底から、ガタ、ガタ、
という濁った物音が浮かび上がってきた。
本堂の方角だ。夕暮れの境内に、あるはずのない音だった。
4人は顔を見合わせた。それだけで、十分だった。鞄を提げた放課後の女子高生の目が、
一瞬で「カルテット・マジコ」の目へ切り替わる。
「……空き巣かぁ?金目のモンなら、そっちじゃなくて蔵の方なのにな」
アシュリーが後頭部で腕を組み、緊張感のない声で、しかし的確な採点を下した。
「とにかく、全員捕まえる。……行くよ。音は立てないで」
おせちの短いハンドサインを合図に、4つの影が境内を滑り出す。砂利を踏んで、
砂利を鳴らさない。夕闇に紛れるその足運びは、遊び半分の顔つきとは裏腹に、
完全にプロの仕事だった。




