issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 08
娘たちの追及が、母を取り囲む。
それでも4人は、心のどこかで「いつもの続き」を待っていた。ここで頭をぽりぽり掻いて、
面目ない、と舌を出す。あるいは苦しい言い訳をこね回した挙句、しまいには全員を笑わせてしまう。
あの豪快で、憎めない母なら――必ず、そうしたはずだった。
だが。
ダンッ!!
拳が、ちゃぶ台へ振り下ろされた。小皿が跳ね、箸が転がり、山盛りの唐揚げがいくつか、
床の上へ転げ落ちる。さなが今日揚げたばかりの、まだ温かいそれが。
「……ええい、うるさいッ!!」
4人の息が、同時に止まった。
尊の顔に張りついていたのは、家族の誰ひとり見たことのない表情だった。
どす黒い苛立ち。手綱の切れた怒り。そこにはもう、叱る側の理すら残っていない。
「わしは、お前たちの母じゃぞ!?この星を何度となく救ってきた、守護神じゃぞ!?そのわしが、自分の金で何をしようが勝手じゃろうが!
なんでお前たちなんぞに、一挙手一投足を見張られて、説教まで垂れられにゃならんのじゃ!」
「か、母さんっ……?」
おせちの声が、怯んで震えた。
この怒り方には理屈がない。道理もない。威厳はなおさらない。
後ろ暗いところを言い当てられた人間が、おのれの弱さを覆い隠すために、
声の大きさだけで押し返そうとする――どこにでもある、見苦しい逆ギレ。
それだけが、神の口から噴き出していた。
「パチンコへ行くな?酒も飲むな?……ふざけるな!わしから楽しみを取り上げて、その後はどうしろと言うんじゃ!
この退屈で、平和ボケしきった世界で……わしに、死ねと言うのか!?」
充血した目が、娘たちをぐるりと睨め回す。次の瞬間、飲みかけのビール缶が壁へ叩きつけられた。
バシャッ!
と中身が弾け、飛沫が砂壁を伝い、黄色い染みをじわじわと広げていく。
部屋に満ちていた唐揚げの香ばしさを、こぼれた麦の匂いが、上から静かに塗り潰していった。
「ママっ!」
張り詰めた空気に、最初に耐えられなくなったのははちるだった。
弾かれたように膝を立て、腰を浮かせる。
「……ええい、もうよい!飯なぞ、いらんわ!」
だが尊は、伸ばされかけた娘の声も、卓を囲む4人の強張った顔も、
ひとつとして見なかった。荒々しく立ち上がると、襖を引き開け自室の方へ。
ぴしゃり。
閉てられた戸の音が、この夜の会話のすべてを、そこで打ち切った。




