issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 07
夜。
はちるの部屋に、夕食のちゃぶ台が囲まれていた。
大皿には、唐揚げが山と盛られている。夕方、さなが提げて帰ってきた特売の鶏肉――あの重たいレジ袋の中身が、きつね色の衣をまとって並んだ格好だ。揚げたての湯気が立ちのぼり、
しかし誰の箸も伸びないまま、細く、細くなっていく。ご馳走を囲んでいるはずの食卓で、
空気だけが水底のように重く沈んでいた。
「……ねえ、母さん。ひとつ、聞いていい?」
口火を切ったのは、おせちだった。それがそのまま、この食卓の開戦の合図だった。
「今日の昼間、どこに行ってた?」
「ん?どこへも行っとらんよ。1日中、家でごろごろ寝ておったわ」
尊はビールの缶を傾けながら、こともなげに答えた。よどみがない。あまりにも、よどみがなかった。
「……嘘だよ」
声を上げたのは、さなだった。小さく、しかしはっきりと。
この家でいちばん争いごとから遠いはずの声が、いちばん鋭い一言を口にした。
「タナカさんが、見てたんだよ。おかーさんが、お昼過ぎにパチンコ屋さんに行ってるところ」
「…………」
尊の手が、止まった。
アルミ缶の底が卓へ降りる、こと、という音。ただそれだけの音が、静まり返った部屋の中で、
やけに大きく尾を引いた。
「母さん、約束したよね?もう行かないって、私たちに」
おせちが身を乗り出す。
「なんで嘘なんかつくの?コソコソ隠れて行って……そんなの、母さんらしくないよ!」
「つーか……どーせ、また負けたんだろ?いい加減にしといた方がいいって、マジで……!」
間髪入れず、アシュリーも呆れ果てた声を重ねた。はちるは何も言わない。言わないまま、
獣の耳をまっすぐ母へ向けて、真剣なまなざしだけで抗議していた。




