issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 02 04
……やり方はいたって単純。買って、売る。ただし、100年後に。
たとえば、ゴッホ本人に筆を執らせて自画像を描き足させ、来たるべき時代の熱狂を待つ。
あるいは虎徹に注文打ちをさせ、300年後の骨董市場にて天文学的な価値が付くその時まで寝かせる。
悠久の時を生きる彼女にとって、そうした数世紀単位の投資など朝飯前の雑事に過ぎない。
時のうねりを味方につけ、定命の人間には模倣すら叶わぬ神の視座より、
芸術品、特許、土地、暗号通貨といったあらゆる資産を雪だるま式に膨張させてきたのである。
「……何言ってんだよ、それは基金に使うモンだろ?」
そこにアシュリーの、めずらしく冗談のオブラートもない指摘が入った。
そう、それら蓄財の大半は「重傷病者を対象としたサイボーグ義肢の無償提供」や「再生医療プロジェクト」へ、多額の投資として投じられる方針となっていた。
一定の生活費をのぞいた私的利用の禁忌――、吉濱家における「公費」のような存在。
すくなくとも娘たちは、蔵の中に広がる、竜の寝床のごとき財宝の山について、
長らくそう理解し、納得していたはずだった。
「まあ、結局は自分で稼いだ金じゃし、そのうちから少しじゃ。すこォ~しだけこっちに取り分を寄せる。それなら問題のないことではないか」
「だめ!言い訳無用だよ!」
おせちは、真剣な眼差しで言い放つ。その一喝は、母の浅ましい豹変ぶりが、他の姉妹の心に、
「幻滅」という冷たい反応を引き起こすことを、未然に防ぐための措置だった。
突き放すような物言いは、彼女なりの不器用な優しさの表れなのだ。
「本日をもって、母さんのパチンコ通いを全面的に禁止します!お小遣いも凍結。財布は私たちが管理するからね。……いい? 絶対に、行っちゃダメだからね!」
娘たちの剣幕に押され、尊はしぶしぶ、不満げに口を尖らせながらも頷いた。
「わ、わかったわかった。行かぬ。行かぬから。……まったく、ドケチな娘どもめ」




