issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 01 03
戦いの緊張が解け、家族としての温かい空気が流れ始めた――かに見えた。
だが、報告会はそう長くは続かない。尊は、残りのコーヒーを一気に煽ると、勢いよく席を立った。
「というわけで、母は今からパチンコに行ってくるぞ」
「この期に及んでまだギャンブルかよ!ババア!」
アシュリーが、鋭く母を叱責する。
「そりゃあもう切っても切れん!わしと博打とはな!……そうじゃ。そうじゃとも。母よりも強くなったお前たちに果たせる新たな親孝行とは、母を尊び、母の身を案じ、その生活のすべてを守り抜くことじゃ」
そのやり取りを見ていたおせちの脳裏に、ふと、ある言葉が蘇った。異星の海、惑星アブズで出会った、
あの融通の利かない管理霊、ストームジーの言葉だ。
『それはきっと、その神の通信機能が故障しているのだろう――』
『……どんな霊であろうと、完全な形で顕現できることなどありえないし、永く物質界に留まれば、残された純粋性も少しずつ損なわれていく』
おせちはハッとして、去りゆこうとする母の背中を指差した。
「あっ、『出来損ないの管理霊』だ!ストームジーが言ってたよ。長くこっちの世界にいると、神様としての純度が落ちて変になっちゃうって。まさに”これ”だよね!」
その指摘に対し、尊は振り返りざま、娘の不敬な指さしを扇子で優雅に払い落とした。
「……何を言うか!それはのう、向こうの管理霊が、まだ若いだけじゃ」
彼女は胸を張り、古びたカフェの空気を支配するほどの堂々たる態度で、ふてぶてしく言い放つ。
「見ておれ。1000年も生きたら、そやつも絶対ワシのようになるからな。神というのは、長くやればやるほど、こういう人間臭い『完成形』に近づくものなんじゃ。
神性は『失う』のではない、『こ・れ・が』完成形なんじゃ!」
「嘘だー!!」
4人の娘たちの声が、再度美しく重なり合う。アシュリーはテーブルを蹴らんばかりに憤慨し、さなは頬を風船のように膨らませて抗議の意を示す。はちるは身を乗り出して「そんなのウチのママだけだよ!」と叫び、おせちは救いようがないと言わんばかりに天井の梁を仰いだ。
「まあ、”テスト”の結果も上々じゃったし、わしはもう行くからのう」
尊は娘たちのブーイングを柳に風と受け流し、ひらりと手を振ると、店の奥にある扉へと足を向けた。
残された4人。コーヒーの湯気が揺らめく中、アシュリーが深いため息をつき、天井の星飾りを見上げた。
「……あいつ、絶対負けて帰ってくるぞ」
「……だね」




