issue#06 I I I Little Talks CHAPTER 01 02
「……」
蝶ネクタイを締め、カメラアイの鉄面皮にカイゼル髭の飾りだけをちょこんと付けたロボットのマスターは、足元を走り回るその怪物を完全に無視し、湯気を立てるコーヒーカップを5人の前へと恭しく配膳していった。
馥郁たる香りを楽しみ、1口すすってから、尊が深く息をつく。
「……蛇蝎山で消えたあと、お前たち、宇宙でそんな冒険をしておったのかァ……」
尊は、娘たちから語られた荒唐無稽な旅路――異星への漂流、惑星の覚醒――を、まるで講談でも聞くような顔で反芻した。そして、呆れたようにカップを置く。
「まったく、なんとも水臭い奴らじゃ。わしさえ呼べておけば、もっと楽に何とかなったものを……」
「……なんで?」
おせちが、コーヒーに口をつけたまま、怪訝そうに上目遣いで問う。尊は、こともなげに答えた。
「なんでって……わしはそもそも、『海の神』じゃからの」
時が、止まった。店内に流れるジャズの音色さえ、一瞬遠のいた気がした。
「「「「――知らなかった」」」」
「「「「そんなこと……」」」」
4人の声が、完璧なユニゾンで重なる。
彼女たちの表情には、「初耳だ」という純粋な驚愕と、「ならもっと早く言ってくれ」という深い脱力が、マーブル模様のように入り混じっていた。
「……でも、相手が悪かったよ」
おせちが、疲れ切った顔でカップを置き、首を横に振る。
「生まれる命ってのが、その惑星そのものでね。私たちは、覚醒した『星』と直接殴り合うことになったんだよ」
尊の手がピクリと止まる。カップを持つ指に力が入り、娘たちの言葉の真意を測るように目を細めた。
「……惑星そのもの、じゃと?」
「うん。大きさ、霊的な格も、文字通り桁違いだった」
「無理。絶対呼ぶな」
尊は、カップをコトンと置き、0.1秒で前言を撤回した。
「おい!海の神どこ行った!」
アシュリーが、テーブルを叩いて最速のツッコミを入れる。
「ふん、冗談じゃ」
尊は悪びれもせず、ニヤリと笑った。
「……愛し子らのためならば、ぺしゃんこの鬼せんべいにされようと構うものか。
まあ、星相手に喧嘩を売って、五体満足で帰ってきたんじゃ。やはりお前たちは、わしなんかより、もうずぅ~っと強くなってしまったんじゃのう……」
ふと、底知れぬ感慨を帯びた母の労う言葉に、4人の表情がわずかに緩む。




