issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 05 70
「さあ、最後の仕上げでちゅよ……。再生、開始ッ!」
マクロブランクがコンソールのキーを叩くと同時、世界を覆っていた「緑」が、
内側から眩い燐光を放ち始めた。それは単なる浸食とは異なる、WCWCのナノマシンが破壊し、
素材として飲み込んだ物質の記憶を読み解き、分子レベルで時間を巻き戻す「復元」のプロセスだ。
ズズズズズ……。
大地を両断していた巨大な地割れが、左右からせめぎ合うように閉じていく。
剥き出しの岩盤が土に覆われ、枯れ果てた荒野に緑が芽吹き、銀色の廃墟だった場所には、
かつての街並みが蜃気楼さながらに再構築されていく。アスファルトが敷かれ、信号機が灯り、
ビルの窓ガラスが朝日を反射して輝く。すべてが、悪夢が始まる前の姿へと、早回しの映像のように戻っていく。
そして、ハイライトは赤道直下、ニュー・ジャマメ。
「おっ、すげぇ!塔が……!」
アシュリーが指差した先。大西洋から北米大陸にかけて横たわり、
粉々に砕け散っていたはずの軌道エレベーターの残骸が、時間を巻き戻すかのように、
質量さえも感じさせずに舞い上がった。数10億t分の破片が重力に逆らって流動し、
あるべき場所へと吸い寄せられていく。
光の激流が、天空へと伸びる1本の線をなぞる。基部が修復され、シャフトが組み上がり、
ステーションが再び宇宙に浮かぶ。わずか数分後。そこには、傷ひとつない白亜の巨塔が、
再び天と地を繋ぐ架け橋として威容を取り戻していた。
その瞬間だった。
フゥン……。
世界中で、風が止まったような感覚があった。役割を終えた「緑色のナノマシン」は、対象である「銀色のナノマシン」を全て消費し尽くすと同時に、自らの構造をも崩壊させたのだ。
プラスとマイナスが衝突し、ゼロになるように。2つの力は相克し、中和され――さらさらとした、
無害な砂塵となって風に消えた。
「……計算通りでちゅ。これにて、地球上からナノマシンの効力は完全に消滅しまちた」
マクロブランクは、モニターに表示された「汚染度ゼロ」の数値を満足げに見つめ、
手元にある小さなカプセルを掲げた。中では、銀色と緑色の液体が、
混ざり合うことなく激しく渦を巻いている。
「ネ=レネ。これを条約機構に渡すといいでちゅ」
「これは……?」
「『ワクチン』でちゅよ。破壊の銀と、再生の緑。この2つを相克しあう状態で保存した、わちきの自信作でちゅ」
彼は、そのカプセルを、宝物のようにネ=レネの手へと渡した。
「これを惑星の地表に打ち込んでおけば、その星はこの種のナノマシンに対する免疫を得るでちゅ。
もし将来、またWCWCのような輩が同じことをしようとしても……この星のように、即座に中和され、無効化されるようになりまちゅ。宇宙中のあらゆる文明や天体に対し、わけへだてなくこれを配るか、
拒むようならコッソリとでも撃ち込んでおくのでちゅ」
それは、天才がこの宇宙に残した、2度と同じ悲劇を繰り返させないための安全装置。
地球を救った奇跡は、全宇宙を救う希望の種として、銀河へと旅立っていくことだろう。
「……ありがとうございます、マクロブランクさん。この星での出来事は、銀河史に残る大きな教訓となるでしょう」
ネ=レネは深く頭を下げ、そのカプセルを大切に懐へとしまった。再生された世界に、
穏やかな風が吹き抜ける。それは、長く騒がしい戦いが終わり、
本当の意味での日常が帰ってきたことを告げる、優しい風だった。




