Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 26
はてしない空の彼方から、まるで2階の窓辺の電線に不意に舞い降りる鳥のように、イムノは通りの片隅へと静かに着地する。
長大な飛翔の勢いをそのまま受け、群れからはぐれたロボット2体を一息で切り伏せると、
剣を横一文字に振るいながら、素早い転身で新たな敵へと刃を向ける。
次の瞬間、目前に迫るブラスターの光弾を、鋭敏な感覚で見切り、剣先で巧みに弾き返す。
跳ね返された赤や青の光は、まるで導かれたように反重力バイクのドロイドたちの急所を次々と撃ち抜いた。
動力を絶たれた金属の体が座席で前へ崩れ落ち、無人となったバイクはそのまま慣性に引かれてビルの壁面に激突、轟音と火花を撒き散らして爆発する。
場の安全を確保してからは、
「よし行くよ――全部、一掃だ!ソイルっ……!」
常に電撃で己の身を彩り続けるようになったイムノが、ロボットであふれ返ったこの東京の通りを跳弾のよう縦横に駆け巡る。
斬撃と銃撃の光景が地上と空中のあちこちで瞬けば、そのたび集まってきた敵は次々と貫かれていく。
その後を追って、おなじく道路の端からのスタートを切ったミーティスが、風を巻き起こすほどの勢いでこの長い舗道を縦断していく。彼女の後方では、従える2,000枚の呪符が空中に巨大な渦を成し、
紙片の群れは、その渦の動きを終えたそばからいそがしく地上に降り注いで、
道のそこら中にあるマンホールの、隙間を目がけて滑り込んでいく。
地下に潜った紙片たちは暗い下水道の奥深くまで入り込み、
そこの天井という天井に、はじめは素早く、そして最後には虫にも満たぬ細かな動きで、ひとつ残らず緻密に貼りついていった。
「何かやってる……ヤバいぞ」
両の鎖を、翼のように大きく広げて次の一撃を準備しながらも、プロディジーは、己に降りかかるタスクの数々に圧倒されかかっている。
戦場の一方では、カラリヤパット・ドロイドがチャクラムのフックを
スヌープキャットの顔にねじ込もうとするが、迎え撃つように振り抜かれた彼女の爪が丸い刃を簡単に押し砕き、軌道のままに胸の装甲を抉り取って爆破した。
自分よりもずっと小柄なユキヒョウの娘が、爆発の余韻を纏い、捕食者の片鱗をみせながらこちらに迫ってくることさえ今はただただ恐ろしくて、プロディジーは思わず身を退いた。
後方へと弾け飛ぶその姿から、2本の鎖が交差しながら投げ放たれる。
結局のところ、彼にとって頼れるものはこの鎖しかない。そしてその両方を、足を大開きににして構えたスヌープキャットは、
――ガキッ!
突き出す右手と左手でなんなく受け止めてみせたのである。
伸びきった鎖の緊張が双方の手に伝わり、刹那、両者の動きが静止する。一方は空中で、もう一方は地に足付けて。
その隙に真横から飛び込んでくるブラスターのひと雨も、スヌープキャットはどこ吹く風といった体で、あるがまま受けとめる。
「今度こそ捕まえたっ!」
背筋を大きく反らせ、プロディジーの、さらなる逃走の挙動に、強烈な待ったをかけた。
スヌープキャットの手が瞬く間に回り始める。ぐるり、ぐるりと回転し、すさまじい速度で円を描いたかと思うと――鎖が、でたらめな結び目とねじれを孕み、複雑怪奇な“縄”へと変貌していた。
「げっ……!」
そして直後、プロディジーは信じて疑わなかった自分の“膂力”が、まったく拮抗できずに崩されていく感覚を味わう。その体が、ねじられた鎖ごと、スヌープキャットの背筋力によって空中へとぶっこ抜かれた。
瞬間、風を裂く音とともに、
――ズンッ!
プロディジーの体は、特大の閂スープレックスで頭から地面に叩きつけられたのである。
打撃の余波で路面がめくれ、建材の欠片が四方に跳ねる。遠目には、砂煙が間欠泉のごとく高く噴き上がった。
スヌープキャットは間髪入れず鎖を軸にもう一度踏み込み、腕と腰を一体にしてうなり声を上げる。
今度は敵を振り子のように持ち上げ、ジャイアントスイングへ――。
回転は加速し、ドロイドたちがその公転軌道に次々巻き込まれ、プロディジーの四肢がかすめるたびに破砕されていく。第3回転、第4回転、さらに速度は増し、遠心力はついに限界を突き抜けた。
最後のひと振りで、スヌープキャットはプロディジーを大きく投げ飛ばす。
するとその体は弾丸よりも速く、300m離れた通りの果て、ビルの側面へと一直線に激突する。
鉄骨が軋み、ガラスが弾け、街の一角には再び激震の柱が立った。




