Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 25
……戦いが終わって、尊は敵の様子からよりも、サッカーのゴールセレブレーションを真似てはしゃぎ、
やがて炎の装束をほどいてすり傷だらけの素顔をさらす娘の姿にこそ、戦闘の一部始終をあますことなく見て取った。
この15歳の少女の足取りは依然として凛然とし、何事もなかったかのような陽気さが瞳の奥には揺れている。
その健気さ、不遜さ、そして多少の生傷ならむしろ似合うくらいの面構え――傍から見た彼女は、
大層たくましいが、母としては、そのひとつひとつの強さが胸を締めつけてならなかった。
「のう、アシュリー――」
「待てよ、大根の白いトコくらいしか栄養がない説教なら後でもいいだろ?向こうに戻らないと」
軽口を投げながら、もう先へ行こうとするアシュリーに、尊は一瞬言葉を探して息を呑む。
だが、その次に出た声音は低く、重みを帯びていた。
「いいや、少し聞け。今日お前がこの場所におることについては今は問わん。だがこれだけは言っておくぞ。お前のさきほどまでの戦いぶりなら、少なからず街にも被害が出ているはずじゃ」
その口調には、静かな怒りと、かつてないほどの真剣味が潜んでいた。
「そう……だけどさ!本当にヤバそうなぶっ飛び方した車は全部なんとかしたって!」
アシュリーは間髪入れず抗弁するが、その言葉の隙間に、尊は何か感じるものがあった。
「本当か?」
「ああ」
「それでも、もうすこし上手いことやれ!――」
尊の声は、揺るがぬ断言に変わる。
「――お前、いつも言うておるじゃろうが。前線から献身的にプレスをかけて、80分台でも全力疾走で守備に戻れるウィンガーが好きじゃと。
それと同じことをな、お前もするんじゃ。これからは、敵にできるだけ暴れさせぬ戦い方を心がけよ」
アシュリーは目をしばたかせ、唇をかみしめる。普段なら皮肉や軽口を返すところだが、この時ばかりは素直に、
「……はぁ~い」
と短く返事をした。その声音には、わずかな照れと、思い当たる節たしかにあっての悔恨と、
母の言葉を真正面から受け止めた証のような真摯さが宿っていた。
「まあ、それはそうとしてよ。ひとまず――ひとまずは本当にようやった」
尊の目は、この時わずかに潤んでいた。娘がふだん見せる不遜さや生意気な態度――それらの奥にひそむ、幼い素直さや迷い。
今まさにアシュリーが唇をかみしめ、珍しく反抗せず、短く返事をしたその姿に、尊は刹那、胸を突かれた。
この子は、どれほど強く振る舞っていても、根底には母の言葉をきちんと受け止める柔らかさを持っている。幾度となく修羅場をくぐってきた背中に、いま、ふと影のように宿るその未熟さも、愛おしくてならなかった。
だからこそ尊は、言葉を続けることができず、ただわずかに視界がにじむのを感じながら、
「……ようやった」
とだけ、重ねて伝えるのだった。
「――んで、他の子らは?」
「別の場所で戦ってる」
話が切り替わると、じつは、ふたりとも苦手だった湿っぽい空気は、
まるで行きずりで交わった男女がその恥の記憶を意図的に手放そうとする時のような、
どこかぎこちない努力をもって、たちどころに、そして懸命に払拭されていった。
「……そりゃいかん!すぐ行くぞ!」
「だから言っただろ?説教は後だって」
それに代わるものとして、そこには言葉以上の信頼が流れ込み、ホットショットは母の腕をしっかりと取る。
ふたりが軽やかに空へ舞い上がる頃には、数秒前の緊張も逡巡もすっかりボヤけて、
親子はまた、いつもの距離とやり取りを取り戻していた。




