Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 24
人の怒りや闘志をあざ笑う、意地の悪い戦い方を同時にふたつも相手にして、
ハヴォックは彼女たちの存在に、あからさまな苦手意識を感じ始めている。
「……ヤな奴が増えちまった!特にあのもっとチビの方、本当につまんねぇ戦い方をしやがる!」
カバの怪人は防衛庁舎の正面ドアを圧し割り、そのまま駐車場へと派手に転がり出る。
巨躯が地面に叩きつけられた瞬間、コンクリートが激しく削れ、かたわらに停めてあった乗用車が、衝撃で小さく跳ね上がった。
ガラス片と砂塵が弾け飛べば、広い一帯が白く煙り、遠ざかる警報音が、金属の反響とともに何重にもこだました。
追って、ホットショットとオールラウンダー――ふたつの影が、壁の一方面が崩れかかった防衛省の建物から、勢いよく外へと飛び出す。
着物姿をひるがえしたオールラウンダーは、裾のはためく音も騒がしく、上空から間合いを詰め、
「覚悟せい!」
2振りの七支刀に鞭のしなるがごとき残像をかけ、その勢いそのままに斬り込んだ。
一方、母と軌跡を分けたホットショットは、すでに高空へと舞い上がっていた。
陽光を背に、防衛省の敷地を見下ろすほどの高度に浮かび、はるか下方――駐車場の1ヶ所を射抜くように睨む。
意識を極限まで研ぎ澄ませた彼女は、両手を肩幅ほどに広げ、
ろくろを挽く陶芸家のよう指先を空中にかざしした。するとその掌と掌の間、虚空の1点に、
灼熱の火球がじんわりと広がり始めた。
ハヴォックは獣の喉鳴らしとともに起き上がり、側にあったワゴン車を片手で掴み上げた。
「おラァッッ!!」
そのままタオルのように振り回し、鬼人の攻撃を牽制する。上段から振り下ろされたオールラウンダーの2刀が車体と衝突した瞬間、衝撃波が球状にほとばしり、オールラウンダーの髪や衣服を逆巻かせるだけでなく、真下のアスファルトをえぐり取った。
激しい衝突ののち、流れるようなバク転で着地したオールラウンダーは、両の剣を横に払いながら、地上を大きくひと舞いする。
みずからの踏み込みに合わせたハヴォックが、両手の指を組んだ鉄槌を振り下ろすと、彼女はそれを迂回の姿勢でかわし、回転の勢いを活かしてさらに間合いを詰める。七支刀の切っ先が黒ずんだ巨人の側面を走ると、衣服が裂ける鋭い音が短く響いた。
「……合わせるぞアシュリー!!いつでもえぇ!」
剣の旋回を解き、差し出した下駄の足先をブレーキにした彼女は、両の剣先を警戒絶やさぬ角度で広げ、まるで「AKIRA」の有名なシーンのよう総身にスライドをかけながら、空に向かって叫んだ。
ホットショットが手中で膨れ上がらせていたのは、己の背丈さえも凌駕する――まさしく小さな太陽そのものだった。
その表面には、ひとことでオレンジとは言い切れぬほど、ぎとぎとと煮え立つ濃淡が混じり合って
プラージュや黒点、フィラメント、フレアといった、本物の太陽に見られる諸相まで微細に浮かび上がり、火炎の揺らぎによってごく短い間だけ形成される山脈の稜線が、球の全面にわたって絶えず不定形な美しさをひらめかせている。
ホットショットは高空でその巨大な火球を重心ごと後方へ引きつけ、
勢いのまま、自身にも爆発的な加速をかけて火球と交差する。
そしてひと呼吸、静寂を溜めた刹那、180度振り上げた脚を稲妻のごとく振り抜いた。
渾身のフリーキックが決まった瞬間、足とボールの接触面からは、まさに核融合の旭日が轟然として爆ぜ、
灼熱の衝撃波が天地を眩ます。
「せっ…………!りゃああぁッッッ!!!!」
それは、ややもすればこのまま宙に根差しかねない莫大なエネルギーを、無理に引き抜くために出た「力み」である。
――バキィイイイイインン!!
くの字に曲がった巨大な火球は――まるでタイヤの空転するような絶え間ない抵抗の一瞬を経て、閃光をまとって弾け飛び、
オレンジ色の軌跡を描きながら駐車場の中央へ一直線に突き進む。
空間そのものを揺すぶる轟音とともに、炎の球体が地表へと激突した刹那、
瓦礫も広場も車も何もかもが、ただ光と熱の奔流に呑み込まれ、
輪郭をはげしく削り取られながら蒸発していく。
オールラウンダーが絶妙な身のこなしでこのすさまじい爆風から距離を取ったことにより、
場に残されたのは、ただひとり――ハヴォックだけとなった。炎と光の中心に取り込まれた彼の、
全身が真っ白に染め上げられていく。
「こんな……嘘だr……!」
*
秋うららな休日の午後――まどろみかけた大都会の片隅に、突如として巨きな炎の花が咲いた。
爆発の閃光は、近隣のビルの窓や遠い路地裏の湿った壁面までも明るく染め上げ、そこにいた人々の心に、しばらく消えない色と光を焼き付けた……。
爆炎が収まった後の、防衛庁舎前の広大な敷地は、灰燼と化したアスファルトと深い焦げ跡がその隅々までを覆ってしまっていた。
火球の着弾点にはいまや広大なクレーターがぽっかりと口を開けており、意識を失ったハヴォックの巨体が、その底で
仰向けに横たわっているのがはっきりと見えた。
「……ここで長いホイッスル! 壮絶な激戦を制したのは吉濱ユナイテッド――ホットショット、まさに圧巻のゴラッソで敵を沈めました!」
ホットショットは決着の余韻を全身にまとったまま、両膝から焼け焦げた路面に滑り込む。手を大きく広げ、まるでスタジアムの歓声を全身で受けるかのごとく、長く鮮やかな膝スライディングのパフォーマンスを決めてみせた。




