issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 05 65
それはニュー・ジャマメで、カルテット・マジコが作戦を開始した直後のこと……。
水深8000m。 800気圧の水圧がすべてを押し潰す、光の届かぬ常闇の底。そこに、
かつて世界を恐怖のどん底へ叩き落とした「エイペックス・レジェンド」を封じ込める、
海底刑務所スティクスが眠る。暗黒の海溝を見下ろす海嶺の陰、岩盤へしがみつくようにして、
1隻の小型潜水艇が停泊していた。
与圧された極小のコックピット内、マクロブランクは無数のモニターから放たれる蒼白い光に濡れている。彼はせわしなく動く触手でコンソールを叩き、情報の海を泳いでいた。
「……ここだ。ここしかないでちゅ」
彼がモニター越しに見つめているのは、スティクス周辺の海底ソナー映像だ。
地上が銀色のナノマシン「グレイ・グー」によって埋め尽くされ、あらゆる物質が均一化されている中、
この一帯だけは奇妙なほどに汚染されていない。そこには不自然な「空白地帯」が広がっていた。
それは、テラー・スクワッドによる臆病すぎるほどのリスク管理が招いた結果だ。
もしナノマシンがスティクスの外壁に干渉し、その拍子にエイペックス・レジェンドが復活でもすれば、
世界征服などという絵図は瞬時に破綻する。26世紀の科学力を背景に、
いちどはカルテット・マジコさえ打倒しかけた怪物だ。彼らはその脅威を危惧するあまり、
この海域をナノマシンの支配圏から意図的に除外していた。
「……皮肉なものでちゅね。お前たちの妙なところでみせる慎重さが、鉄壁の要塞にたったひとつの『風穴』を開けたのでちゅから」
マクロブランクは、手元の赤いレバーへぬらりと触手を絡ませる。彼がこの数週間、
屈辱と泥にまみれながら、世界中のジャンクパーツと知識をかき集めて培養した、起死回生の切り札。
「対抗ナノマシン『グリーン・グー』……播種、開始でちゅッ!」
ガコンッ、と重たい金属音が響き、レバーが押し込まれる。 潜水艇のハッチが開き、
高圧の海水中に放出されたのは、蛍光グリーンに輝く微細な粒子の濁流だった。
それは深海の海流に乗り、発光する帯となって海底の岩盤へ吸着する。岩肌に触れた瞬間、
爆発的な自己増殖と侵食が始まった。




