issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 05 31
彼女の網膜が捉えていたのは、この惑星が46億年かけて積み上げた常識の全否定だった。
褐色の巨柱が、傾ぐ。
数万kmの構造体が、根元を折られた巨木そのままに、北米大陸の方角へとその頂を沈めはじめている。
動きは、この距離からそれを見つめる者の精神を削り取るためだけに設計されたかのように緩慢だ。
だが「緩慢」であることと「止められる」ことの間には、銀河ひとつぶんの距離がある。
星の自転が生んだ角運動量を全身に蓄え、地球そのものの回転をてこに倒壊していく軌道エレベーターを押し戻す手段など、この宇宙のどこにも存在しない。
ホットショットの視界が、ここで奇妙な錯覚を起こした。
眼下の地球が――1冊の、途方もなく巨きな飛び出す絵本に見えたのだ。
見開きには、宇宙から地表へ向けて投げ出された戦士たちの背中があった。
断熱圧縮が練り上げる紅蓮のトンネルを、それぞれの放物線で引き連れながら落ちていく人影。
身を焦がす光の繭に包まれたまま、誰ひとり振り返らない。
その下には、地表から天頂へと一斉に弾け上がるミサイルの群れがあった。
白煙の束が束縛を断ち切るように空を埋め、数1000の火の粉が互いに追い越し合いながら、
落下してくる者たちを迎え撃とうとしている。
2層の絵が描く対称の構図。その中央を、天から地へと貫く褐色の柱が繋いでいた。
製本で言うところの「のど」――見開きの背骨。倒壊する軌道エレベーターは、
この惑星という本の綴じ糸そのものとなって、ゆっくりと、取り返しのつかない角度で差し込まれようとしている。
――ズドドドドドドドドドドドォォオオオオオオオオンッッッッッ!!!!
閃光が、虚空の黒を喰った。
上昇するミサイル群が、降りてくる柱の側面に次々と吸い込まれていく。
弾頭は水飴を叩きつけたように潰れ、炸裂し、赤い花弁となって四方に散る。
連鎖する火球がエレベーターの外殻を舐め上げ、視界のすべてを灼熱のオレンジで飽和させた。
だが、柱は止まらない。
数100もの核出力が束になって叩きつけられてなお、この質量の前では蝋燭の火を吹きかけたに等しい。
炎の帷を両腕で引き裂くようにして、褐色の尖端が大気圏の底へと突き入る。
摩擦熱が岩盤コーティングの表面温度を恒星のそれに押し上げ、柱全体が自ら光を放つ天体へと変貌した。
赤く、赤く、さらに白へ――。
光景を、地上の誰かが仰ぎ見ていたとすれば、
それは空そのものが折れて降りてくるようにしか映らなかっただろう。
その灼熱の切っ先が、北米大陸の「フューチャー・ラボ」を正確に捉え、
裁きの一撃として振り下ろされた。




