issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 05 17
アイスクリームバンの閉鎖的な筐体内部。鼻をくすぐるのは、重たく甘いバニラの香料。
その澱んだ薄暗がりで、深く瞑目していたさなの瞼が跳ね上がる。
網膜には先ほどまでダイブしていた地下深層の残像、そののノイズが焼き付いていたが、
瞬きひとつで現世の薄闇へと上書きされた。意識の奥底から浮上したさなは、
強張る指先を解くように親指を突き立て、無言で宙へ掲げる。
「……終わった、そろそろ始めよ!」
その合図は、隣で待機していたはちるへの撃鉄だった。
膝上のラップトップ。液晶を滑落する膨大なコードの明滅が、狭い車内をストロボのように切り裂く。
それは、耳目符が卓上の軽業で架橋した、強固なネットワークブリッジの証明だ。
「ほいきた!」
はちるの不敵な笑みが、モニターの冷光に青白く浮かび上がる。
彼女が照準を定めたのは、単なる一施設の警備システムではない。その施設が接続し、
この行政区画全体を神経系のごとく統括する『広域防災ネットワーク』の中枢だ。踊る指先が、
セキュリティ・プロトコル内の災害検知レベルを最高深度へと書き換えていく。
「これでどうだ!」
Enterキーが叩き込まれた瞬間、
『緊急事態発生。地下パイプライン大規模損壊。可燃性ガス、および毒性物質の広域拡散を確認』
平穏だった街の空気が、一気に張り裂けた。
施設内のみならず、通りに林立する防災スピーカー、巨大な街頭ビジョン、そして通行人たちが握りしめる無数のスマートフォン。それらすべてがシンクロし、耳をつんざく警告音をかき鳴らす。
「緊急速報。市内全域に避難指示を発令。地下埋設管からの大規模なガス漏洩を確認しました。
火気厳禁。市民の皆様は直ちに、指定避難場所または市外へ退避してください」
淡々としていながらも生存本能を逆撫でする合成音声が、空から豪雨のように降り注ぐ。
政府施設の重厚なゲートが強制開放され、職員たちが雪崩を打って飛び出してくる。呼応するように、
周囲のオフィスビル、商店、そして住宅からも、顔色を失った人々が通りへと吐き出された。
右も左もわからぬまま、ただ『逃げろ』という命令コードに突き動かされた群衆が、
目抜き通りを黒く埋め尽くす。車列はクラクションを悲鳴のように鳴らし合い、
歩道は人の波で飽和した。
1区画どころか、街という機能そのものを強制停止させる巨大な混乱の渦。その喧騒と足音は、
さなたちが潜むアイスクリームバンの車体を振動させるほど膨れ上がっていた。




