issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 05 16
「おかーさん!?」
床にへばりついた紙片が、圧壊寸前、その1点で永遠に安定するこの場の空気を震わせた。
「……さな。そこにいるのは、さなじゃな?」
呼びかけに応じたのは、対面の壁に張り付けられた白い繭だ。幾重にも巻き付いた拘束帯の隙間から、尊が濁った眼光を向けている。高重力に押しつぶされ、胸の空気を入れ替えることすら重労働となる環境下で、その声だけは確かな輪郭を保っていた。
「ようやく戻りおったか。……親を待たせるにも限度があるぞ」
「うん、ただいま。ごめん、ちょっと寄り道しすぎちゃった」
札から響く少女の声は、この殺伐とした拷問部屋には似つかわしくないほど、
日常の延長にある軽やかさを帯びていた。その能天気さが、
逆に尊の張り詰めていた神経をわずかに緩める。
「……他の子らも……みな、怪我はしとらんか?」
「ピンピンしてるよ!蛇蝎山の転送装置で宇宙まで飛ばされちゃったけど、向こうの星でいろいろ頑張ってきたの!」
荒唐無稽な旅路の報告に、尊は呆れたように息を吐こうとして、重力に阻まれて咳き込んだ。
全身が悲鳴を上げる中、苦笑いだけを顔面に貼り付ける。
「呆れた話じゃ……。お前たちが呑気に星巡りをしておる間に、こっちはこのザマよ。地球はあらかた、奴らの手の中じゃ」
「それをね!今から全部なんとかするの。そのためにここまできたんだから」
さなの言葉には、根拠のない楽観ではなく、鋼のような意志が宿っていた。
その響きが、死にかけていた尊の細胞に活力を注ぎ込む。
「マクちゃんに対策は全部教えてもらったから。今から地下の中枢システムを止めに行ってくるね」
「……ほう」
「すぐに戦いになるけど……おかあさんは大丈夫?」
娘のあどけない問いに、尊は拘束帯の中で四肢に力を込めた。
ミシミシと繊維が悲鳴を上げ、白い繭が内側からの圧力で歪む。
「愚問じゃ」
カッ、と尊の瞳が見開かれ、かつての女傑としての覇気が蘇る。
「我が子のため、世界のためとあらば、骨が砕けていようと立つわ。……ここまで来れたということは、大方の状況は飲み込めておるな?隣の部屋に転がされておるジジイとババアは、わしが叩き起して説得してやる」
「ただ、システムの制御が終わったら――」
「え?」
「ひとつ頼みが、その札、腰に貼ってくれんか。湿布代わりにな……」




