issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 05 13
まず耳目符が滑り込んだのは、巨大な脳髄にも似た、低温で管理されたサーバールームだった。
冷えた循環風が常に壁面と床下を流れ、室温を一定に保っている。無数の光ファイバーと電力ケーブルが束となって天井を走り、金属製のラックユニットが整然と、しかし威圧的に立ち並ぶ。
それは、機能美と同時に、近寄りがたい無機的な威容を放っていた。
霊符は、無数のユニットが発する唸りの中、冷気を運ぶ循環風に乗って、まるで木の葉のように宙を滑空する。その行く先は、通路に面した古い型のコンソールユニットの手前だった。霊符は、そこで尻尾を翻すかのように鋭く旋回し、浮かんだまま停止する。
フィイイイイン……
コンソールユニットが起動し、眼前の卓上には青白い光の粒で構成された光子キーボードが投影された。
紙の札は、その光子のキーボード上へ正確に舞い降りる。次の瞬間、札は自らの四隅を、あたかも4本の手足であるかのように荒々しく引き伸ばした。
右上の角を盤面の端へ突き刺し、同時に左下の角を対角の彼方へ。薄い背中を限界まで反り上げてブリッジし、紙の繊維が悲鳴を上げんばかりにねじれ、歪む。 それはまさに、光の盤上で繰り広げられる孤独なツイスターゲームだった。人間であれば関節が外れているであろう体勢を次々と成立させ、認証とリンク確立のためのコマンドをそこへリズミカルに叩き込んでいく。
操作されたコンソールユニットの小型モニターが、一瞬、待機中の「緑」から接続確立を示す「赤」へと変化し、すぐに元の「緑」に戻った。
仕事を終えれば、耳目符は素知らぬ顔で冷えた風に乗り、複雑に分岐する鉄の回廊を滑空していく。水平移動から、底知れぬ闇が口を開ける縦坑への急降下へ。深層へ潜るにつれ、地上の光と熱は完全に遮断され、ただ重苦しい鉄の臭いと、空調ファンが唸る低周波だけが支配する空間へと変わる。
回転する巨大な換気ファンの隙間を、紙一重のタイミングですり抜ける。マクロブランクから伝えられた、地下深層の座標。頭の中に焼き付けたその場所へ、迷いなく辿り着く。
札は身を魚のように旋回させ、格子状の排気口から眼下の空間を覗き込んだ。
そこには、灰色のコンクリートと厳重な電子ロックで区切られた、収容区画が広がっていた。
高重力と高出力電磁波。それらは目に見えずとも、通路にまでは直接の影響をあたえずとも、
この区画そのものを異質な粘度で満たしている。
施設内の空調が運び込む空気の味すら、この区画だけは鉄錆とオゾンが混じった特有の苦みを帯びていた。これほど過剰かつ暴力的な封鎖環境を維持し続けているエリアなど、広大な施設をくまなく探したところで他には存在しない。ゆえに、目的の部屋を特定することは造作もなかった。




