Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 20
「くっ……、ちくしょうがぁっ……!!」
プロディジーには、もう、この娘にまともに取り合う気はなかった。その証左とばかりに、彼は起き上がりざまの姿勢から、どこかへ駆け出そうとしていた。
背後を気にかけながら、無言の手ぶりでドロイドたちに合図を送り、火線を前方に展開させると、自分自身は敵影のない方角へとひたすらに走り続ける。
密集陣形を組んだ歩兵たちが放つブラスター弾は、点ではなく面の攻撃となって戦場を覆い尽くすが、
スヌープキャットは、無邪気なしたり顔で歯牙にもかけることなく爆進を続けた。
その行く手を阻むかのように、空中から1列に降り立っていく影がある。
「!」
スライムが叩きつけられるかのような、流体的な着地の最中には正体がまるで掴めなかったが、動きを止め、同じ角度から日の光に晒されるにつれて、次第にその全貌が明らかになっていく。
……白と金の2色で美しく塗り分けられたボディ、両手にはチャクラムを構え、
頭部はバリ・ヒンドゥー教のガルーダ面を思わせる異形――。
そうした奇怪なロボットが一糸乱れぬ統制で戦列を組み、スヌープキャットの前に立ちはだかったというわけだ。
それこそはテラー・スクワッドの近接戦闘型ロボット、カラリパヤット・ドロイドの1部隊だった。
彼らは、長い手足を活かし、殺戮の舞踏を踊るようにしてスヌープキャットを取り囲む。
チャクラムが宙を泳ぎ、金属の足音が規則正しいリズムを刻みながら、包囲網が徐々に狭まっていく。
だがドロイドの破壊など、いくら機種が変わり攻め手が変わったところで彼女にとっては大した手間にはなり得ない。
腕をひと振りすれば、たいていの片は付く。
しかし、これはいくらなんでも数が多い。ライフルマン・ドロイドの支援を受けた10数体のカラリパヤット・ドロイドが同時に襲いかかってくる状況は、
さすがに、すぐさま解ける数式ではない。そして何より、オカピの獣人の男という最重要の目標が、
恥も外聞もなく戦場から離脱しようとしているのだから、話はさらにややこしい。
時間との勝負、数との勝負、そして逃げる標的との追いかけっこ。
スヌープキャットにとっては、まさにのっぴきならない局面となった。
――まさにこういった時だ。
逃走するプロディジーの足元にひとつの影が射し込み、
「なっ――!」
男の、縦長い体を残像にするほどの速さで弾き飛ばしたのは。
プロディジーは、まるでテーブルに投げられたトランプのように、地面を大きく滑り、
「――ッ!」
ビルの壁に激突する。
「待ちなさい!逃がしませんよっ!」
札の数々を巨大な扇のように固めて、敵を殴り倒していたのはミーティスだった。
両手を広げた彼女はその紙片を半円状の壁へと解き直し、間を置かず殺到するドロイドのブラスターや、土煙の中から飛んでくる鎖を次々と受け止めていく。
そして一瞬、扇ぐようにして両手を内から外へ振り抜けば、札の一団は灰色をした煙の中へと敏速に突入する。
その刹那、
――シュッ!!
なんと3本目の鎖が空中を横切った。腹部を正確に狙ったこの一撃がミーティスを捉え、
「ぐっ……!」
という呻きとともに彼女の体はくの字に折れ、空中へ吹き飛ばされる。
「さなっっ!!」
この現場に疾走してきたイムノが、衝撃波を纏いながら中空を飛んでいく姉妹の姿を目で追い、叫んだ。
ミーティスの身体は歩道橋の欄干に激突し、鉄骨がU字にひしゃげて粉じんが舞う。
その勢いのまま背後の自動販売機に叩き込まれ、缶が雪崩のように弾け飛び、赤い液体が地面に跳ねた。
受け身を取る間もなく転がった彼女は、路面を5メートルは滑り、やっとのことで背を起こす。
「っ……やりますぢゃん……!」
片目を辛うじて開いたミーティスが、煙の中に伸びた黒い陽炎を睨んでいれば、
ほどなくして、「第3の鎖」の正体が徐々にあきらかにされていく。
粉塵が晴れ出したところから、オカピの獣人はその、青みがかった長い“舌”を、キュビズムめいた
面長の輪郭の内側へと巻き取っていったのだ。
初めはゆっくりとだったが、口元へと流れ込む量が多くなるにつれ動きは次第に加速し、
最後は呑み下されるように消えていった。
「ハァー……ハァー……!」
しかしプロディジーも、この奥の手の披露によってか、肩で大きく息をするようになっている。




