Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 19
……スヌープキャットの身ごなしは明らかに軽くなっている。
プロディジーが至って真剣に投げ飛ばす鎖の軌道も、どこかおどけたナルト走りのままに
にこにことした顔で立ち向かい、まるで飛行機が空中で身をよじるように、ひらりひらりとそれをかわし、アスファルトへと無意味に突き立たせてしまう。
得意げに舌を出し、ウィンクをひとつ刻んだ彼女は、次の瞬間、さらに加速して、敵に打撃の届く距離まであっさりと達した。
ゴゥッッ!!!
しゃがんだところから、一転して伸びやかに放たれる彼女のパンチには、
肝を冷やすほどの轟音が必ず先行した。
ゆえにそれは、空気が裂け、単なる拳でなく鉄の塊がこちらへなだれ込んでくる錯覚を呼ぶ。
プロディジーは両腕を硬く交差させてそれを受け止めるが、
衝撃は彼の身体を10数m先へと弾き飛ばし、後方で支援に回っていたドロイドの一角をもろとも突き倒す。
「――」
着地したばかりのプロディジーの頭上に、
ズンッ!!
容赦なくもう1発、拳が叩き落とされる。
オカピの獣人は、すんでのところで体をねじって斜めへと跳ぶが、クレーターを穿つほどのその一撃は、
巻き込まれた10数体のドロイドを原形もとどめず吹き飛ばし、装甲片や火花を爆風に合わせて舞い散らせた。
空中のプロディジーは、スヌープキャットの攻撃の隙へと鎖を上から投げ下ろす。
それが顔面に命中し、彼女は一瞬だけ表情をゆがめる。だが、今の彼女は圧倒的なパワーファイターだった。プロディジーの力ではもう、正攻法では彼女の膂力を受け止めきれない。
*
ミーティスの札が軌跡を引きながら連射され、イムノの剣閃が機械の脚を切断していく。
札が炸裂するたび、空間が炎に跳ね飛び、ドロイドの外装がばらけて散る。
ふたりの少女が、それぞれ別の地点で、またにわかに頭数を増やしだしたロボットたちと死闘を繰り広げながらも、ときどき遠目に窺ってやまないのは、戦場をかき乱し孤軍奮闘する頼もしい姉妹――スヌープキャットの姿である。
鎖の波を簡単にくぐり抜け、敵の包囲を自らに引き寄せては暴れまわる――、
今やこの戦場の空気は、彼女の意志ひとつで右にも左にも揺れていた。
スヌープキャットが素早く身をひねると同時に、
「ニャオゥッ!!!!」
ひときわ大きな動きのパンチがプロディジーへに迫る。
それは、彼にとってどうしても避けきれない間合いと絶妙なタイミングで放たれた1発であり、
次の瞬間、スヌープキャットの鉄拳はプロディジーの顔面を捉え、その頭部を、ブレがかかるほどの衝撃で大きく吹き飛ばした。
(え――?)
オカピの獣人にとってそれは、物がしばらく、2重に見えるほどのダメージだった。朦朧とする意識のなか、彼が状況を理解するより早く、対角線からのフックが右脇腹に深く突き上がる。
「ごぶっ……!」
これが即座の“気付け”になったのは、はたして幸いなことだと言えただろうか――。
白目をむき、草食獣の幅広な唇からよだれを垂らし、苦しそうに身をよじる中でプロディジーはひとつの気づきを得る。
「こいつっ………もしかして加減してたのかっ……!!??」
「ごめんね!……ウチ、人と戦うの今日が初めてで!どれだけの力ならあなたがなるべくケガをしないかってずっと考えてたの!――」
足が止まれば、スヌープキャットの追い打ちのパンチは容赦なく飛び続けた。プロディジーは思わず両腕でガードを固め、窮屈そうに身悶えしながら、四方から降り注ぐ拳に対してただ己の命を守り抜くことのみに全力を注いだ。
「――だって、殴って死んじゃう相手だったら困るもん!でもあなたは大丈夫みたいっっっ!!!」
つまり加減というより――スヌープキャットは、目の前の相手をどこまでの力で殴っていいのか、その基準すら今まで持たなかったのだ。
だが今や、プロディジーは彼女の中で「そこそこ頑丈な相手」として一定の信頼を勝ち取ってしまった。
それは、むしろ戦慄すべき結論に他ならない。
バキィン――ッ!!
ラッシュの締めとして、白い毛並みのミドルキックが、鞭打のように彼の胴を打ち抜く。
この一撃は、インパクトの瞬間腰を急激に引き戻すことが特徴である、ムエタイの理想的なフォームで放たれている。
250cmの肉体が、ビールの王冠のような衝撃波をまとって弾け、車数台を巻き込みながら止まることなく吹き飛ばされていった。




