Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 18
ホットショットは、ひと息つく間に先ほどの運転手の安否を確かめている。
見ればその男は、書類が散乱した事務机の陰で無事を保っていたが、顔をこわばらせたまま、窓の外を指しながら激しく首を横に振っている――.
……彼の視線の先には、“これから起こる何か”の予兆が、ほの暗く漂っていた。
その指し示す方向から、今も濃く残る爆煙を押し分けて、ハヴォックの巨影が突入してくる。
背筋を沈めながら、鉄槌に構えた両腕が頭上から振り下ろされた。これが、咄嗟な前進に合わせて身体を2度回転させ、弾け飛ぶように打ち出されるホットショットのハイキックとぶつかり、圧のこもった衝突音が空中に響く。
だが、真正面からの衝突には見えても、ホットショットの蹴りには、わずかに角度の傾斜が加えられていた。これによりハヴォックの鉄槌を意図的に振り抜かせ、勢いの余った腕を利用するかのようにして彼女は、
「おっ!!――」
ぶつけたスネを軸にしてもう1回転、さらに体をひるがえす。
「――らぁッッ!!!」
そして、変則的な角度でのかかと落としを、2足歩行の肉体に接合されたカバの頭の、広すぎるうなじにめり込ませたのである。
――バキィン!!
すさまじい勢いでハヴォックの全身が地面に叩きつけられ、
顔面が直撃したその瞬間、周囲には盛大な土煙が舞い上がる。
そんな猛攻を受けたにもかかわらず、ハヴォックはすぐさま姿勢を立て直した。
頬にはくっきりと、地面との衝突の痕を残しながらも、牙をむいて愉悦の笑みを浮かべると、
獣の本能さそのままに、どっしりと足を地に戻した。
「ノォォスロンドンッッッッ、フォーエバーッッ!!」
そこへ、グーナーの熱い魂を感じるかけ声とともに追撃の業火がすぐさま降り注いだ。人払いがすでに済んでいるのをいいことに、その炎は、着弾時の威力そのままに炸裂し、周囲の環境を焼き払う、容赦なき破壊の柱と化した。
家よりも太い火柱がわずかにほつれ、その裂け目から、くすぶる巨体――ハヴォックの姿が一気に現れる。肩を上下させ、熱気を纏った呼気を吐きながら……そこへ、ホットショットの肉体が勢いよく飛び込んできた。火を噴き上げる拳が、容赦なくハヴォックの頭上をめがけて振り下ろされる。
「……いいねぇ、お互い温まってきたか!!」
ハヴォックもこれにすぐさま応じ、
今度は彼の拳が、岩の槌さながらに唸りを上げて迎撃の軌道を描いた。
しかし、ホットショットの一撃は巧妙なフェイントだ。
「そろそろこういうタイミングだって――」
彼女にとっては予定調和のブレーキをかけ、
身を沈めて迫りくる腕の真下を飛び、そのまま敵の背後へ素早く抜ける。
「――思わないか!?」
動きの切り替えは一瞬だった。
すぐに彼女は、回転を加えた肘打ちをハヴォックの頬に叩き込む。
「ごぉっ……!!」
続く1手、火と濡れた皮膚の軌跡がまた空間に渦を描き、
今度こそ果たされた打撃と打撃の交差は、地面を砕き、空気をゆがませるだけに留まらず、次なる激突の前触れとして周囲に圧を放った。
しかしハヴォックはこの一撃に賭けていた。ホットショットが吹き飛ばされた途端、彼の口から泥弾が2発、立て続けに吐き出される。直径3mほどの――黒く、そして濡れた塊。その弾道は敵が、正面から突撃してくることを明確に拒絶していたが、ホットショットは間隙を見極め、滑るようにそのあいだを通過する。
直後には、地鳴りに似た鈍音が2発彼女のはるか後方で起こっている。「土属性の爆発」としか形容できない爆圧が、周辺の放置車両をひしゃげさせ、雑居ビルの壁面を一気に崩落させたのだ。
拳と拳がぶつかり合い、ホットショットの突きを受け止めたハヴォックの肩がわずかに沈む。
すかさず彼女は、体の小ささを活かして首相撲に持ち込み、離陸さながらの全身運動で左膝を
敵のみぞおちに突き立てる。カバの丸い体が一瞬、宙に浮いた。
「やっと効いてきたみたいだな?」
相手が純粋な苦悶の表情を浮かべる最中、不敵に笑って、そう言い放つホットショット。
直後、先の一撃のコンビネーションとして空中から放った膝蹴りが、こめかみに直撃し彼の巨体を払った。
その比類なき喧嘩屋の感覚は、「お互い温まってきたか――」という直近の発言が、強がりで発せられたことをとうに見抜いていたのだ。
そして、何度目かの衝突。だが、ハヴォックにもまだ余力はある。その余波を感じさせるまま、戦場の焦点は、別の地点へと遷っていく――。




