issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 05 06
「現在、条約法第4条2項において、貴政府の統治正当性は『未承認』のステータスに分類されています。現状のままでは、ゴチェヌコイのような捕食的な他勢力が飛来した際、貴国は『無主地』と見なされ、その資源および市民に対する略奪が国際法上正当化される恐れがあります」
間を置かず、彼女は畳み掛ける。
「総統閣下、貴方は『世界を支配する』ために存在しているはず。しかし、その支配権を裏付ける国際法上の根拠が欠落していれば、貴方の統治そのものが対外的に『無効』と判定されるリスクがあるのでは?」
「……無効?吾輩の支配が、無意味であると?」
AIの眼窩の奥で、青い光彩が不規則に明滅した。『世界を支配せよ』というWCWCからの最優先命令と、『法的根拠の欠如による支配権の消失リスク』という新規入力情報。
相反する概念が論理回路の中で火花を散らし、処理落ちのラグを生む。
「ですが、ご安心を。本条約にご署名いただければ話は別です。第9条『主権の遡及的承認』の適用により、貴方は銀河社会から『正当かつ唯一の支配者』として公認されます。……ただし、権利の行使には義務の履行が伴います」
ネ=レネは空中に展開された膨大な条文の中から、意図的に致命的な矛盾を孕んだ1節をピンポイントで拡大表示した。
「第15条『加盟国の義務』。……『加盟国の代表者は、その全市民に対し、基本的人権と幸福追求権を無条件で保証しなければならない』。加えて、『環境保全のための持続可能な開発目標(SDGs-Galactic)』を遵守する義務を負います」
「……市民の幸福? 環境の保全、だと?」
シャカゾンビの挙動が停止した。 彼の内部データベースには、WCWCやテラー・スクワッドから入力された『市民からの容赦なき搾取』『環境破壊を代償とした急速な開発』『カラスへの不当な利益供与』という現場命令が、絶対順守の教義として刻まれている。しかし、眼前の外交官が提示するのは、支配者としての地位を確立するために不可欠な『条約』であり、その内容は現場命令と真っ向から対立していた。




