issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 05 02
重厚な扉が音もなく閉ざされ、広大な執務室は完全な密室となった。 極度に空調が効いた室内には、
サーバーの冷却ファンが奏でる低い駆動音だけが、耳鳴りのように満ちている。
世界地図が投影されたホログラムデスクを挟み、星間条約機構・地球文明担当特命駐在官ネ=レネ・ココと、地球統一政府総統シャカゾンビ――その姿を模した自律型統御AIが対峙する。
「……よく来たな、条約機構の特使殿」
シャカゾンビの声は、音響工学的に計算され尽くした「絶対的な威厳」の周波数で響き渡った。
ネ=レネは、その人工的な完璧さに微かな嫌悪感を覚えつつも、表情筋を一切動かさず、
デスクの前で優雅に一礼した。
「拝謁の機会をいただき、感謝いたします、総統閣下」
顔を上げると同時に、彼女は電子杖を一振りし、空中に数枚のホログラム文書を展開する。
そこには、事前にマクロブランクと練り上げた膨大な「論理爆弾」としての法的文書が格納されていた。
「本題に入る前に、まずは先刻の『事案』についての謝罪を。……我が条約機構の加盟文明であるゴチェヌコイ連合艦隊が、貴星の領宙域を無断で侵犯し、多大なる混乱を招いた件についてです」
その言葉に対し、シャカゾンビは不愉快そうに鼻を鳴らす動作を、最適な反応として行った。
彼らテラー・スクワッドにとって、あの艦隊騒ぎは「寝耳に水の侵略」であり、
自らの支配を脅かした不愉快なイレギュラーでしかない。
「謝罪、か。……ふん。しかし、星間条約機構とやらの主要構成員を名乗るにしては、
随分と飼い犬の躾がなっていないという印象だが――」
シャカゾンビは、組んだ両手の指先をトントンと合わせ、傲岸不遜に見下ろした。
「しかも、その独断で動いた駄犬は我が国の防衛機構と接触するや否や、尻尾を巻いて逃げ出した。……我が管理下にあるこの地球に、他の星と同じスキームを愚かにも適用しようとすればどうなるか、これでよく理解できたことだろう」
「おっしゃる通りです。彼らの行動は、条約の規定を逸脱した独断専行……完全なる過失でした。
管理不行き届きによる貴政府への精神的被害、深くお詫び申し上げます」
ネ=レネは深々と頭を下げる。 これは欺瞞だ。だが、相手のプライドを刺激し、「自分たちが優位である」と錯覚させるための必要な儀式だった。




