issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 04 51
彼が自嘲気味に触手を丸めた、その直後だった。
「――このタコ脳味噌!」
ドンッ、とちゃぶ台が揺れる。アシュリーが身を乗り出し、マクロブランクの顔を両手でガシッと掴んでいた。そこには、さっきまでの嘲笑も、汚物を見るような目もない。あるのは、呆れるほどの感謝と、最大級の賛辞だ。
「何が馬鹿だよ!お前、恩人じゃじゃないか!私たちの!……命のさ!」
「へ……?い、いや、それは……」
「すごいよマク!マクがウチらのこと守ってくれてたんだね!」
はちるが瞳を輝かせ、アシュリーの横から彼に抱きつく。
「あの時約束を守らなかったのは私たちの方なのに……君は……私たちの事そんなに思っててくれたんだ」
おせちもまた、言葉の端に涙の色を乗せ、感慨深い表情で頷いた。
「マクちゃん……ほんとに……ありがとねっ!」
さなが胸の前で手を組み、心からの敬意を込めて微笑む。
「え、あ、うぅ……そ、そうでちゅか? わちきは、別に……」
予期せぬ称賛の集中砲火に、マクロブランクの思考回路がオーバーヒートを起こす。
ピンク色の顔が、茹でダコのように真っ赤に沸騰した。だが、彼女たちの感謝は言葉だけでは収まらなかった。
「こいつが英雄だっ!おい、やるぞ、お前ら!」
「「「うんっ!」」」
アシュリーの号令と共に、4人の手がマクロブランクの小さな体の下に差し込まれる。
「せーのっ!」
「わっ!?ちょ、何をするんでちゅか!?」
軽やかな掛け声と共に、マクロブランクの体が宙へと舞い上がった。
「わっしょい!」 「わっしょい!」
日本の伝統的な祝勝の儀式、胴上げだ。リビングの天井近くまで放り投げられるピンク色の脳味噌。
「ワールドカップ優勝だー!」
重力から解き放たれ、蛍光灯の光に照らされた彼は、目を白黒させながらも、下から自分を受け止めてくれる4人の笑顔を見下ろした。
「目が回るでちゅ~!でも……悪くない気分でちゅ~!」
かつて世界を支配しようとした頭脳は、今、狭い6畳間の中心で、温かな感謝のリズムに揉まれていた。
それは、彼が生まれて初めて味わう、「仲間」として受け入れられる喜びの重力だった。
何度目かの打ち上げに浸る中……。
「……はっ!……ちょっと待つでちゅ! まだ話の肝心なところが終わってないのでちゅよ!」
天井が顔の近くにまで迫り、無重力の頂点に達したマクロブランクが、突如、空気を切り裂くような金切り声を上げた。そして、その唐突な訴えに、4人の反応はあまりに素直すぎた。彼女たちは一斉に「え?」と動きを止め、差し出していた腕を引っ込めてしまう。
結果、そこに残るのは、支えを失った質量と、万有引力の法則の冷徹な働きのみ。
「……ぺぎゅっ!!」
ベチャッ、という生々しい着地音が、リビングの畳に響き渡った。
「あ」
歓喜の絶頂から奈落の底へ。叩きつけられた衝撃で目を回しながらも、
マクロブランクはプルプルと震える触手で上体を起こし、恨めしげに頭をさすった。




