issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 04 44
日記
メイヌーはいつ出んの?マジで 冗談抜きに
タダでアメリカ旅行させるためだけに招集するなんてイングランドも太っ腹な連中だよな
「……もう、疲れたでちゅ。全部、水に流して……シャットダウンするでちゅよ」
濁った水面、その一部が、彼を手招きするように背筋を膨らませ、白波を滾らせる。
世界から不要とされた存在が、みずかららその機能を停止させようとした、その時だった。
ひと筋の炎が、音もなく、けれど圧倒的な質量で空を裂いた。
それは夜空を飾る花火の儚さや、導火線を這う頼りない火花とは次元を異にするエネルギーだ。
太く、空間そのものを焼き焦がして鮮烈な赤を刻み込む、強靭な熱の軌道。
その輝きが、落下しかけた小さなピンク色の塊を、優しく抱きすくめるように空中でかっさらっていった。
死を覚悟した彼の全身を包み込んだのは、肺を凍らせる冷水ではなく、
頬を焼くほどの荒々しい「熱波」だった。
目を開けば、そこは泥濘の中ではない。欄干から身を投げ出して、まだ数秒と経っていない宙空だ。
視界を埋め尽くしているのは、世界を拒絶するように燃え盛る紅蓮の炎。
そして、彼をがっしりと抱きかかえる、乱暴ながらも頼もしい腕の感触が、確かにそこにあった。
「……おい!字がヘタクソ過ぎて『拾ってください』って書いてんのわかんなかったぞ!」
いたずらっぽく唇を端を吊り上げ、苦情を口にする少女の顔が、至近距離から覗き込んでいる。
「――!!」
風が、光の粒子となって流れていくのをマクロブランクは感じた。
鼓膜を打つ風切り音。だが、氷雨が彼の肌を濡らすことはない。 彼に触れようとした雨粒は、その熱量に触れた瞬間、ジュウジュウと音を立てて白い蒸気へと爆ぜ、温かな霧となって散っていく。
それは、あらゆる冷淡な現実から彼を隔絶する、絶対的な守護の結界だった。
雨空の下、対岸の雑草が生い茂る川原に、彼女はダンッ、と力強く着地する。
揺らめく陽炎。逆立った赤髪。そして、すべてを焼き払うような不敵な眼差し。
あの時と――あの廃棄物処理場の底から救い出された時と、寸分違わぬ構図がそこにあった。
雨煙る土手の上。 そこへ、ヘッドライトの光束を雨粒に乱反射させながら、黄色い車体のピックアップトラックが、エンジン音を唸らせて駆けつける。バム、バム。 電子的な開閉音ではない。古臭いヒンジが軋み、重たい鉄板が枠に叩きつけられる手動ドアの無骨な音が、雨音の合間に響いた。その音を合図に、3つの影が濡れた草地を滑るようにして、土手の下へと駆け下りてくる。
ホットショットが、腕の中の小さく震える塊を、差し出された手へとそっと預けた。
「マクちゃん!」
アシュリーから受け渡されるや否や、さなが彼を強く抱きしめた。その瞳はすでに赤く腫れ、どれほど心配して泣きはらしたかを痛いほどに物語っている。彼女は、泥と油にまみれ、薄汚れてしまった大脳皮質の感触など気にする素振りもなく、自身の柔らかい頬をそこへ愛おしげに摺り寄せた。世にも純粋な、あたたかい雫が、冷たい雨に混じって彼の肌を濡らす。




