issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 04 41
雲南の険しい山脈を越え、長江の濁流を下り、最後は密航船の甲板から、冬の日本海へ身を投じた。
肺が押し潰されるような水圧と、窒息寸前の恐怖。地獄のような旅路の果てに、マクロブランクはついに極東の島国、日本へと漂着した。
だが、そこはゴールなどではない。新たな孤独という名の荒野の入り口に過ぎなかった。
とある港町。マクロブランクの姿は、かつての風格を完全に喪失していた。自慢の艶やかな大脳皮質は煤煙と泥にまみれて黒ずみ、半透明の魚肉ソーセージのような弾力を誇った触手は、いまや水分を失い、無惨にひび割れている。道行く人々は、彼を未知の海獣の死骸か、あるいは悪趣味な廃棄ロボットと見なし、誰1人として目を合わせようとはしなかった。
「やっと、日本の土を踏めたでちゅ……。でも、あいつらの家はここから何100kmも先……」
彼は震える触手で自身の体を抱きしめる。ここですべきは、彼女たちへの通信ではない。
微弱なパケット信号1つでも発信すれば、世界を監視する「敵」のネットワークに即座に捕捉される。
そうなれば、これまでの苦難はすべて水の泡となる。
「……自分の足で、歩いていくしかない。アナログな物理移動だけが、唯一わちきのステルス性を保証してくれる手段なのでちゅ。さあ、もうひと頑張り……システム再起動……」
自分に言い聞かせる思考とは裏腹に、体は鉛のように重く、コンクリートの冷たさが芯まで沁みていく。
「……寒いでちゅ。ひもじい……でちゅ……」
路地裏の薄汚れた飲食店の裏手。油の匂いが混じる室外機の温風に縮こまりながら、彼は今日何度目かの記憶の再生を行っていた。それは数ヶ月前――彼が別の場所で廃棄されかけていた時、
莫大な熱量とともに現れ、彼を空へと引き上げてくれた、あの乱暴で温かい腕の感触だ。
『……ゲッ、脳味噌に顔がついてる! わるい、そういえばウチペット禁止だったわ』
『……段ボールは用意するからさ、「拾ってください」っていうの自分で書いてくれるか?』
あの時、ホットショット――吉濱アシュリーはそう言って笑った。当時は屈辱的なブラックジョークだと、彼はそれに対し強く憤慨した。だが、極限状態にある今の彼にとって、その言葉はまったく別の響きを持って蘇っていた。
(……そうでちゅ。あの言葉は、単なる悪口ではなかったはずでちゅ!)
マクロブランクの脳裏で、シナプスが最後の火花を散らす。
(あれは……予言だったのではないでちゅか?いつかまた、わちきが道に迷い、世界の掃き溜めに落ちた時……再会するための「符丁」だったに違いないでちゅ!きっとこの星には、そういう文化があるのでちゅ!)




