issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 04 38
硬質なはずのアスファルトが、銀色の粘液へと変質し、生き物のように足首へ纏わりつく。
「――!?」
異変は地面だけに留まらない。見上げるような摩天楼の壁面までもが、ドロリと重力を無視して隆起した。 銀色の沼から競り上がってくるのは、無数の鋼鉄の骨格だ。 高速で凝固するナノマシンの飛沫が、瞬く間に装甲となり、銃器となり、冷徹な光学センサーを宿した頭部へと形成されていく。
「製造」と呼ぶにはあまりに速く、「召喚」と呼ぶにはあまりに即物的。
虚空から搾り出されるように出現した鎮圧用ドロイドの軍団は、一糸乱れぬ駆動音と共に大地を踏みしめ、あるいは背面のバーニアを焼いて空を埋める。逃げ場などない。
全方位に屹立した銀色の絶壁が、恐怖に悲鳴を上げる人々の退路を、一切の慈悲なく断ち切っていた。
『――対象勢力の抑止を確認』
無機質な合成音声が、ドロイドのスピーカーから解き放たれる。
『カルテット・マジコ。治安維持活動への協力、感謝する。初期鎮圧の労力短縮に貢献したことを評価する』
「そんな……ッ!?」
ミーティスが息を呑み、血の気を失う。
自分たちの必死の説得が、あろうことか「暴徒の足止め」としてシステムに利用されたことに、
気が付いたからだ。
『以後の処理は、当治安維持機構が引き継ぐ。これ以上の介入は不要である』
ドロイドの銃口が一斉に持ち上がる。だが、その照準はデモ隊ではなく、
彼女たちへと向けられていた。
『抵抗、および干渉の意思を見せた場合、背後の市民を即時「排除」対象へと切り替える。……賢明な判断を期待する』
「汚いぞ……ッ!」
イムノが唇を噛み、行き場のない拳を震わせる。
動けば、この数万の群衆がまたたく間に殺される。
動かなければ、彼らは連れ去られる。完全なる詰みである。
そして、さらなる絶望が足元から這い上がってきた。 硬質だったはずの大地が、
再び銀色の泥濘へと相転移する。だが今度のそれは、先ほどとは比較にならない、
都市規模の捕食現象だった。
見渡す限りの景観そのものが、巨大な生物の内臓のように脈打ち始めたのだ。
天を突く上海タワーの外骨格が、飴細工のようにねじれ、ドロリと溶解して崩落を始める。
降り注ぐ銀色の触手たちが、逃げ場を失った人々の足首を器用に絡め取り、
引きずり倒し、空高くにまで引っ張り上げた。
四方を囲むビル群は、壁としての機能を捨て、生物的な収縮を繰り返しながら蠢きだす。
コンクリートとガラスで構成されていた広場は、
いまや何万もの獲物を一度に咀嚼するための、巨大な銀色の胃袋へと変貌を遂げていた。
「助けてくれぇッ!」
「お願い、カルテット・マジコ!!」
「……いやだ、離せ、離してくれ!」
悲鳴が、銀色の顎によって次々と断ち切られていく。ナノマシンの大地がみたび隆起し、
その場で即席の護送トラック群が形成された。
捕縛され、宙をさまよい続けた市民たちは、銀無垢の触手によって、ただの物体として、その車列めがけて放り投げられる。彼らの体がトラックの銀色の外壁に激突する――その瞬間、硬質なはずの装甲板が水面のようにたわみ、粘ついた波紋を広げた。人々は悲鳴を上げる間もなく、金属の膜へとずぶずぶと沈み込み、抵抗なく呑み込まれていく。
術を封じられた4人の眼前で繰り広げられるのは、あまりに効率的で、おぞましい、人間回収のベルトコンベアだった。数分もしないうちに、通りから人の気配が消失する。残されたのは、銀色の輝きを取り戻した無人の道路と、拳を握りしめたまま立ち尽くす、無力な魔法少女たちだけだった。




