issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 04 31
……ゴチェヌコイの艦隊を退けたとしても、世界の在り方は何ひとつ変わらなかった。
もちろん、この時点におけるカルテット・マジコの4人は、世界政治の中枢――その厚い扉の向こう側で、敵組織が滑稽な内紛劇に興じているになど、つゆほども思いもしない。
地球へ帰還した直後、彼女たちを待っていたもの。それは、
行動開始の合図としていた「政府からの表敬訪問」でもなければ、「理不尽な逮捕劇」でもなかった。
ただの無視。ねぎらいの言葉ひとつない、完全なる放置である。
依然として全人類の命を人質に取ったまま、テラー・スクワッドは不気味な沈黙を守り、
カルテット・マジコの4人に対し、何の変哲もない「生徒としての日常」を強要してくる。
その、いつ終わるとも知れぬ永遠の現状維持こそが、今の彼女たちにとっては、
最も残酷で脱ぎがたい拘束衣だった。
冬縛学園、高等部。放課後の昇降口。冷たい雨が、アスファルトを叩いている。
「じゃね!サーニャ。また明日」
「……気をつけて帰るのよ」
手を振るのは、幼馴染のシノと、20年の時を遡って少女の姿を取り戻したカンノアキノ。
同じ制服を着たクラスメイトとして、さなは、彼女たちと靴箱の前で何気ない別れの言葉を交わす。
「うん。……また明日」
短く応じたさなは、ローファーのかかとを鳴らして雨の校庭へと踏み出した。
傘は差さない。それでも、彼女の髪や制服が、水気に晒されることは一切ない。
展開された念動力の、不可視のドームに弾かれ、雨粒が彼女の周りだけを恐れるように避けていくからだ。
灰色の雨幕の中、ぽっかりとくり抜かれた乾いた空間を纏いながら、さなは低空を滑っていく。
その孤絶した光景は、世界から浮いてしまった彼女たちの立ち位置そのものだった。
同じころ、吉濱家の門前。湿った空気の中、はちるが郵便受けに手を突っ込んでいた。
毛のふかふかした、ぬいぐるみのような指先が摘まみ上げたのは、1通の白い封筒。
それは、母・尊への面会を求め、世界政府へ送付した嘆願書だ。
だが封は切られることなく、「受取拒絶」の付箋と共に突き返されていた。
封筒の表面、宛名の上に無慈悲に叩きつけられた朱色のスタンプ。その柄は、
ローアングルから見上げたシャカゾンビが、胸の前で腕をクロスさせ『バツ』を作っているという、
為政者の品性を疑うふざけたデザインだった。
「……またダメだったよ」
はちるが肩を落とす。
「字が下手だったから読まれなかったんだろ?」
着崩した制服のポケットに手を突っ込んだまま、傘もささずに隣へ並んだアシュリーが、
封筒を覗き込んでニカっと笑う。
「むぅ……!」
はちるが頬を膨らませて抗議しようとすると、アシュリーはポンと、その大きな肩に手を乗せた。
「気にせずガンガン送るぞ。こっちが根負けするか、スタンプのインクが切れるのが先か……そんだけの勝負だ」
その声色は、からかいを含みつつも、どこまでも優しく、温かかった。




