issue#05 I I I Why Can't We Be Friends? CHAPTER 04 26
……祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひには亡びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ――。
その厳かなる無常の理は、現代においては、以下のように表現されるだろう。
「……ふん!こっちから願い下げでちゅ!こんな品性のないブラック職場、わちきの才能の無駄遣いでちゅよ!」
「……減らず口叩いてんじゃねェ!退職金代わりにそのケツへ一発くれてやる! 消えな!」
地球統一政府本庁。その巨大な正面自動ドアが、恭しく左右へスライドする。
そこから現れたのは威厳に満ちた為政者の姿ではない。ハヴォックの履く特大サイズの安全靴の裏が、
ぬっと突き出され、脳髄だけの怪物の柔らかい尻(と思われる部分)を、
ゴミのごとく蹴り飛ばした瞬間だった。
「んげっ!」
蛙が潰れたような呻き声を上げ、マクロブランクが弾き出される。
彼は、毎朝ロボット掃除機によって鏡のように磨き上げられた白亜の石段の上を、
ゴム毬のようにリズミカルに跳ね落ちていった。
ビタン、バイン、ボヨンッ、コロコロ……。
無様な回転の果てに、彼は通りの石畳に顔面から着地した。
「……っててて」
マクロブランクは体をぷるぷると震わせ、平衡感覚を取り戻そうと頭を振る。
すると、さきほどまでの静寂な空調音に代わり、外のノイズが彼の聴覚を支配した。
すぐそばにある噴水の水音。そして、政庁前を行き交う無数の足音と、
遠巻きに聞こえてくるニュー・ジャマメそれ自体の喧騒。
「……あ」
彼はおそるおそる顔を上げる。そこでは、公務や観光で訪れた数多の市民たちが、
石段の下に転がってきた「喋る巨大な脳みそ」に対し、好奇と困惑、
そして若干の不審が入り混じった冷ややかな視線を投げ続けていた。
「あ、いや……わちきは、その……」
言い訳をする気力さえ、喉の途中で霧散した。彼は力なく視線を落とす。
そこには、主と同じ無様な放物線を描いて石段を転がり落ちてきた、1本の枯れ枝が寂しく横たわっていた。
彼は、震える触手でそれを拾い上げる。枝の先端には、どこから調達したのか、
薄汚れた布で作った小さな包みが、固結びでぶら下がっていた。中に入っているのは、
使い古した歯ブラシと、じゃらりと鳴る程度の小銭。そして、かつての栄光の残滓たる、
数枚の薄っぺらい表彰状だけ。
それが、かつて「宇宙イチの天才」を自称し、新世界のシステム構築を一手に担った存在の、
全財産だった。
見上げれば、白銀の摩天楼――つい数分前まで、おのが手足も同然だったはずの巨塔たちが、
今や他人の顔をして、冷ややかに彼という存在を頭上から値踏みしている。
そう、マクロブランクは、この輝ける未来都市の谷底で、正真正銘の素寒貧として―― あまりにも過酷で、そして喜劇的な「人生のやり直し」を強いられることになったのである。




